【2月19日】心の中の“石”
- 公開日
- 2026/02/19
- 更新日
- 2026/02/19
校長のひとりごと
致知出版社『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』、福岡ソフトバンクホークス監督の小久保裕紀さんの「イチローが野球をやる理由」からです。
2019年、イチロー選手が現役を引退しました。彼との思い出で最も忘れがたいのは1996年のオールスターゲーム。私24歳、イチロー22歳の時のことです。私は1994年に青山学院大学から福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)に入団しました。2年目で本塁打王を獲得したものの、「俺はパ・リーグ一番だ」と天狗になってしまい、翌シーズンは開幕から全く打てず、焦りは募るばかり。一方、イチローは高卒でオリックス・ブルーウェーブ(現・オリックス・バッファローズ)に入団し、3年目の1994年に初めて最多安打と首位打者に輝くと、翌シーズンはその2つのタイトルに加えて打点王を獲得。1996年も3年連続の首位打者へ驀進中(ばくしんちゅう)でした。そういう状況で迎えたオールスターの試合前、イチローと二人で外野をランニングしながら、彼に
「モチベーションって下がらないの?」
と尋ねました。
「小久保さんは数字を残すためだけに野球をやっているんですか?」
「まぁ残さないとレギュラーを奪われるし……」
すると、イチローは私の目を見つめながらこう言ったのです。
「僕は心の中に磨き上げたい“石”がある。それを野球を通じて輝かせたい」
衝撃でした。
それまでは成績を残す、得点を稼ぐ、有名になることばかりを考えていたのですが、この日を境に、野球の練習をしているだけではダメ、自分をもっと高めなければいけないと思い至りました。
心がけたのは一人の時間の使い方。空いている時間は読書をすると決め、毎日実践しました。野球を通して人間力を鍛えるというスイッチが入ったのは、彼の言葉があったからこそです。後年、「あの時の言葉のおかげで俺の野球人生がある」と感謝の言葉を何度伝えたかわかりません。
野球をはじめどんなスポーツの世界であれ、またスポーツ以外の世界であっても、結局は「人間力」「人間性」がとても大切であることを教えていただいている気がします。イチローさんは「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」という言葉に代表されるように、常にストイックな姿勢からも「努力の天才」といわれます。それは、やはり野球を通じて人間性を磨き続けてきたからこそだと思います。そして、メジャーリーグでの「シーズン最多安打記録」「10年連続200安打&ゴールドグラブ賞」…そして昨年、日本人およびアジア出身者として史上初の、アメリカ野球殿堂入りを得票率99.7%という圧倒的支持で果たしました。しかも、殿堂入りの投票で「1票(0.3%)」足りなかったことを「1票足りなかったからこそ、まだ不完全であると思える。また頑張れる」と発言しています。どこまでもストイックなイチローさんです。また、イチローさんは道具を大切にすることでも有名です。「バットは湿気を嫌うから」と、常にジュラルミンケースに入れて保管したり、グローブの手入れも怠らず、道具を自分の体の一部のように大切にしました。そのような姿勢が彼の偉大な記録や功績に繋がっているのだと思います。
そんなイチローさんの言葉に衝撃を受け、野球に対する姿勢、野球以外に対する姿勢を変え、人間性を磨いてこられたからこそ小久保さんもその後の様々な活躍、そして現在は監督としても活躍されているのだと思います。
現在行われているミラノ・コルティナ冬季五輪で活躍されている選手の方々の競技に向き合う姿勢やインタビューなどからも、その素晴らしい人間性がうかがえます。私たちはやはり、人としてどうあるべきか考え、目先のことだけにとらわれることなく、常に自分の心の中にある“石”を、磨き続ける努力をしなければならないと思います。
(ひとりごと第1169号)