【5月11日】ことばの力
- 公開日
- 2021/05/11
- 更新日
- 2021/05/11
つぶやき
本日5月11日付西日本新聞「春秋」からです。
桜前線が北海道の北端と東端に着いた。列島を桜色に染める度は今年も終わった。ある年、詩人の大岡信さんは桜色の着物に魅せられた。桜から取り出した色ですと染織家から聞き、花びらからと思った。咲く直前の樹皮からと知って、花の色は木全体が持つ色のほんの先端なのだと思った。言葉の世界も同じだなと考えた。
一語一語は花びらの一枚一枚といっていい、と書いた1978年の随筆「言葉の力」は、中学2年の国語教科書(光村図書出版)の令和3年版にも載っている。言語世界は時代とともに変貌する。先月の本誌で詩人谷川俊太郎さんはネット社会の「言葉のインフレ」を憂えていた。「言葉の値打ちがどんどん下がっている」。ただ「現場がある言葉は重みが違う。職人さんの言葉とかね」とも。
文明を代表するスマホがヒトにもたらす良くない影響も指摘され始めて久しい。人間は言葉を友に一生を歩む。最初の一歩を踏み出す子どもたちの言葉の力は、ネット社会の中で大丈夫だろうか。
福岡市の隅田保育園長、木村純子さん(今春の叙勲で瑞宝双光章受賞)は、子どもたちの言葉の力を高めることを大切にしてきた、と本紙に話している。
「人は自分が知っている言葉で物事を考える。語彙(ごい)を増やせばそれだけいろいろなことを考えられる。逆境に立たされた時、自分を立ち直らせる原動力にもなる」。
こういう話をたくさん聞きたい。
私も言葉を大事にしたいと常々思っています。そして、言葉のもつ力はとても大きいと思っています。そんなことを考えている最中の、「緊急事態宣言中の体育祭は延期」。
このことを、子どもたちに伝えることがこんなにもつらいことだと、目をキラキラと輝かせている子どもたちの前に立ったとき、改めて思いました。
子どもたちは、全員が体を向け、真剣な眼差しで聞いてくれている。そして、今日の練習もリーダーを中心に本当によく頑張っている。リーダーたち(特に3年生のリーダーや実行委員)は、全体練習が始まるずいぶん前から多くの時間を費やして頑張っている。そんな姿の子どもたちを見たときに、そして、16日本番を楽しみにしている子どもたちにどんな言葉で伝えようかと、心が揺れました。もちろん、事実は事実としてきちんと伝えるしかないことはわかっている。緊急事態宣言下、子どもたち、家族の方、先生方、みんなの健康や安全のための「苦渋の決断」であることもわかっている。ただ、何より一番つらいのは、子どもたちである。
それでも、これまでの子どもたちの頑張りはしっかりと評価してあげたいし、そして、このことにも負けず、また前を向いて頑張ってほしい・・・そう思ったとき、自分はどんな言葉がかけられるか?と考えました。
「これまで頑張ってきたことは、絶対に無駄にはなりません。頑張ったことは、すべて君たちの力になっています。『プロセス』が大事なことは皆さん、わかりますよね?ここまでの過程が大事なのです。それと同時に、私は、意味のないことなんてない!と思っています。いいことばかりでなく、嫌なことも苦しいこともすべて自分の『成長』へと繋がっています。16日にできなくなったことは、悔しいし、悲しいですが、気持ちを切り替えて頑張るしかないのです。突然の報告で、今、嫌な気持ちや落ち込んでいる人がいるかもしれませんが、これを乗り越え、また前を向いて頑張ってほしいし、そして、また頑張ることができる皆さんだと期待しています」
私は、子どもたちのことを信じています。きっと、また切り替えて頑張ってくれるはずです。それが御陵中の子どもたちです!
保護者の皆様におかれましても、どうぞご理解をいただき、お子様への声かけをよろしくお願いいたします。