ジャーナリストの岡田豊さんの書かれている本に『自考(じこう)』というものがあります。「自考」という言葉は、あまり聞き慣れない言葉ですが、岡田さんは「自考」の定義を4つ書かれています。
1　自分の頭で考えて、既存のルールや価値観、やり方などを疑うこと
2　自分の頭で考えて、自分のやり方を見いだし、創り出すこ
3　自分の頭で考えて、自分以外の人を受け入れること
4　その他（自分で自考して追加してください）
　絶対的な定義はないのですが、「自分の頭でしっかり物事を考える」ことが自考なのだと思います。岡田さんは、「自考」することこそ、この時代、そしてこれからの時代にとても大切なことであると述べています。ひとつの成功事例として競泳の日本代表である大橋悠依(おおはしゆい)さんのことが書かれていました。

　2021年の東京オリンピックで輝いた選手の中で、競泳の大橋悠依さんが印象に残りました。女子個人メドレーの200メートルと400メートルで金メダルを獲得した大橋さん。日本女子で初めての2冠の快挙です。
　しかし、平坦な道のりではありませんでした。これまで、平井伯昌(ひらいのりまさ)監督とぶつかり、大学時代は貧血に悩まされ、水泳をやめたいと思うこともあったといいます。
「すべてのことをネガティブに捉える。それが頭に出てしまう。周りの同級生や先輩後輩が腫(は)れ物に触るような感じの時もあったし。ですけど才能もあるし、もう少し待たないといけない、コミュニケーションを明るくとらないといけないと考えていました」。
　平井監督はかつての大橋さんのことをこう語っていました。しかし、大橋さんは東洋大学時代の2017年7月、世界選手権の200メートル個人メドレーで日本新記録を出し、銀メダルを獲得します。そのころ、大橋さんはメディアの取材にこう語っています。
「ダメな部分探しみたいなことばっかりやっちゃってたんですけど、それがちゃんと自分もできるんだみたいなものが増えてきて、できるだけ前向きにというか、挑むようになったのかなと思います。自分で考える力みたいなのがすごくついて、考えるきっかけとかも、先生は与えてくださいましたし。その力がついたのが一番大きいかなと思います」。
　ぶつかり合いながらも、正面から向き合った平井監督から「考えるきっかけを与えてもらった」と言っています。「考える力」がついたことが飛躍につながったというのです。
　そして迎えた東京オリンピック。2つの金メダルを手にした大橋さんは振り返ります。
「本当に、本当にいろんなことがあったんですけど、でも、本当に最後は先生（平井監督）を信じてよかったんだなと思いますし、自分のことを信じてくれた先生にもすごく感謝しています」。
　自考してきたことが金メダル2つの快挙につながったのではないでしょうか。

　大橋さんは、平井監督という素晴らしい指導者と出会ったことは当然大きかったと思います。水泳に関する技術的な指導だけでなく、精神面の指導やサポート、たくさんの声かけをしてもらったことだと思います。そのことにより「課された練習メニューをただこなしていた自分」、または「練習させられていた自分」から、「自分で考えて、改善し、より意欲的に練習すること」ができるようになったのかもしれません。その中で、「ネガティブな自分」から「ポジティブな自分」へと変わっていき、それが今回の快挙にもつながったのだと思います。

　人から指示されたことをするだけが楽かもしれません。しかし、未来を予測することが困難なこの時代には、なおさら自分でしっかり考え、判断し、行動していくことがとても大切になってくるのだと思います。本校の教育目標「自律貢献」の「自律」も、まさに「自考」ともつながっています。自分自身のこと、周りの人のこと、社会の状況、ウクライナのこと、世界情勢のことなど様々なことについて、「自分の頭でしっかり考える」ことがとても大切だと思います。そして、自分の行動を振り返り、改善し、よりよい行動へとつなげていく…
　子どもたちに「自考」する力をつけることができるよう、私たち大人が頑張らなければと思います。

※今日の4時間目、3年1組・2組の保健体育の授業で「ダンス発表会」があっていました。学校で受ける教科の授業としては、中学校最後となりました。子どもたちは楽しそうに踊っていました。何より、見ている子どもたちの雰囲気とその姿勢のよさに感心させられました。私も自然と笑顔になりました。3年生、本当に素晴らしいですね！