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【9月19日】非認知能力

公開日
2025/09/19
更新日
2025/09/19

校長のひとりごと

 日本教育新聞の記事の中に『管理職の独り言』という欄があります。9月15日付の新聞には、堺市内小学校の校長先生のコラムが載っていました。


 昨今、大学のサークル数が急激に増えているという話を聞いた。要は少人数で内輪だけでの活動がはやっているとの説明で、合点がいった。勤務校の状況を見るに、クラスで気の合った4、5人で小グループを形成しており、その話とつながったのである。背景には「同調できる仲間とだけいたい」「関わりの中で傷つくような経験をしたくない」「失敗したくない」といった心理があるかもしれない。しかし、こうした傾向を放置していてもよいのだろうか。これを打破しようと、勤務校では小・中連携の取組と同様に幼・保・小連携に力を注いでいる。

 以前から、幼・保の比較的「自由」を尊重する世界と小学校の「集団」重視の世界のギャップが「小1プログラム」を生み出しているといわれてきた。勤務校では、幼・保の職員と教職員とで、相互に園児・児童を観察し、意見交換を深める他、それぞれの実践の教育的意義や背景を学びあっている。交流を通して重視するようになったのは、「非認知能力」の育成で、特に二つの「そうぞう」(イマジネーション[想像]、クリエーション[創造])とコミュニケーションを教育活動に取り入れ、実践するように務めてきた。VUCAといわれる時代にこそ、自己肯定感やチャレンジ意欲を育みたい。

 令和の日本型学校教育の柱は、「個別最適な学び」「協働的な学び」となっている。私は将来を担う子どもたちにとって、とても大事な要素と思っている。一つは幼・保の教育が、この二つの学びを通じて非認知能力を育てているという面だ。もう一つはGIGAスクール構想が定着し、AIやチャットGPTがさらに日常化する時代にあっても「自分で考える」「対話して行動する」ことの重要性は変わらないと考えるからである。しかし、わが国の公教育は、制度疲労を起こしている。社会の変化や多様化に対応できておらず、一刻も早く学校の膠着性(こうちゃくせい:進行が止まり、打開策が見つからないまま長引く状態)を打破すべきだと考える。


 「非認知能力」とは、「社会的情動スキル」や「人間力」ともいわれます。具体的には「やりぬく力」「自制心」「忍耐力」「柔軟性」「自己肯定感」「向上心」などの自分と向き合う力、「協調性」「共感力」「思いやり」「コミュニケーション力」「リーダーシップ」などの他者とつながる力、「創造性」「メタ認知」「計画性」などの課題を解決する力などをさします。

 「非認知能力」が日本で広く知られるようになったのは20年ほど前からです。ノーベル経済学賞受賞者であるアメリカの経済学者、ジェームズ・ヘックマン教授が発表した論文です。彼は、幼少期に非認知能力を育むことの重要性を実証し、その研究成果が世界的に注目されました。幼児教育プログラムとして、3歳~4歳の子どもたちを対象に、質の高い就学前教育を施すグループと教育を施さないグループに分け、その後の人生を長期にわたって追跡調査をしたというものです。当初の目的は、IQ(知能指数)に大きな影響を与えるかを検証するための調査でしたが、プログラムを受けた子どもたちが一時的にIQが上がっても、小学校中学年頃にはプログラムを受けなかった子どもたちとほぼ変わらなくなっていたそうです。当初の目的からするとこのプロジェクトは「失敗」だったということになりますが、ヘックマン教授は、このデータに着目し、40年以上にわたる追跡調査を行った結果、IQでは測れない別の能力が、その後の人生の成功に大きく影響していることを明らかにしたのです。要は、テストで点数化できるような見える学力(認知能力)よりも、点数化できない力(非認知能力)を高めることが、学歴の向上や経済的安定、犯罪率の低下など、後の人生の成功につながっているというものでした。

 先日テレビを見ていると、わが子の「非認知能力」を、お金を払って塾で育てようとしている人が増えているとのニュースがあっていました。「将来のためにも、小学生のうちから育てたい」ということだそうですが、別の方はこんなことをおっしゃっていました。本来、「非認知能力(人間力)は家庭や学校で、たくさんの人と関わりながら自然と身につけていくものではないか」「家庭の中でもっと子どもと関わりながら、育てていきたい」というコメントもありました。変化が激しく未来の予測が困難な時代、この非認知能力を身につけることはより一層大切なことです。

 本校でも、「学力(点数化が難しい主体的に学ぼうとする姿勢などを含めた学力)・体力の向上」、「社会性の向上」、「未来志向力の向上」を重点目標として、日々の授業の中で、またSEL-8S(社会性を育む学習プログラム)などを意図的・計画的に実施し、行事やキャリア教育の充実などにより、教育活動全体で社会性を育み人間力を高めることに取り組んでいます。また、本校教師講話による「にんげん学」の実施、外部講師に来ていただいての「夢講座」などを通して、夢や目標、志を持つこと、生き方のヒントを与えるような活動も行っています。

 これからも、子どもたちには、たくさんの人と関わり、様々な活動に積極的にチャレンジし、試行錯誤や失敗を繰り返しながらも、人として大切なことをたくさん身につけ、成長してほしいと思います。


(ひとりごと第1077号)