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【12月19日】一行でもいい

公開日
2025/12/19
更新日
2025/12/19

校長のひとりごと

 藤尾秀昭さん監修『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』に載っている作家 宮本輝さんの「行き詰った時の対処法」からです。


 37年、『流転(るてん)の海』シリーズを書き続けてきたのは、諦めないことですね。完結というのは自然にするんじゃない。自分の意思で完結させるんです。だから、最後まで諦めない。諦めない限り、必ず達成する時が来る。小説家になってからは、とにかく粘り強くなければ仕事は続けられない、続けたら何とかなるんだという思いでやってきました。

 書けない時ももちろんあります。。技術的に行き詰っている時もあるし、実在の人物をモデルにしていますので、これは書いても差しさわりないだろうかっていう場面の選択もある。一つの小説を仕上げる時には、それはもういろんな葛藤があるんですけど、それを37年間やるっていうのは、やっぱりしんどいですね。

 書けなくて行き詰った時はどうするか。一行でもいいからとにかく書くんです。よく「もう書けない」「筆が止まっちゃってさぁ」って言う人がいますが、それは書けないのでも、止まってしまったのでもなく、書かないんです。あるところでパタッと止まってしまった。次に進みたい。この時に、橋渡しをする一行を無理矢理にでも書くんです。そうしたら、次の橋へ渡れるんです。この一行を書くのに大変なエネルギーがいるわけですが、それがしんどいものだから、「書けない、書けない」って酒を飲んでいる。とにかく書くんです。書いたらまた動き出すんです。

 機関車でも完全に止めてしまうと、また動かすのには大変なエネルギーが必要でしょ。ゆっくりでも動き続けていれば、加速をつけるのは難しくないんですよ。仕事もそれと同じで、これは小説に限らずあらゆる仕事に言えると思いますね。「書けなくても書くんだ。書いたらまた書けるようになるんだ」と口が酸っぱくなるほど言ってきましたけど、できない人はいつまでもできない。何年か経って、「どうや、書いたか?」「いや、止まっています」「やっぱり書けないです」って。そうやって終わっていく人をいっぱい見てきました。

 書けなくても書かなきゃいけない時に、何が大切か。これは結局、書き続けるという意思と技術を自分の中で見つけて、絞り出すしかありません。


 宮本輝さんの本を読んだことがない私ですので、少し調べてみたらこの『流転の海』は、37年もの歳月をかけて完結させた全9部からなる自叙伝的大河小説だそうです。また宮本さんは、「川三部作(泥の河、螢川、道頓堀川)」でデビューされ、その中の『螢川』という作品で芥川賞を受賞された日本の現代文学を代表する作家の一人とのこと。

 そんな宮本さんは、行き詰ってもまずは一行でいいから書くこと、とおっしゃっています。私は「ひとりごと」ですら、すぐに行き詰ります。「今日は無理。絶対無理…」と思うこともしばしば…。しかし、楽しみにしてくださっている人も少しはいらっしゃる、そして自分自身で「続ける」と決めたのだから意地でも続けたいという一心でここまできました。行き詰ったときは、とにかくまたいろいろな本を広げてみたり、ネットで検索したり、新聞を読み返したりして今日の話題をと思っています。「きついなぁ」とか「無理だ」と思って動かなければ、少しも前に進みません。

 たとえば、「なかなか勉強が手につかない」ということ、子どもたちを含め私たちも経験上、あると思います。手につかなくても、ひとまず自分の机につくこと。そして、問題集でも開くととりあえずこれをやってみるか。そして取り組んでいるうちにいつの間にか集中している自分がいる…ということをおっしゃる人がいました。意外と少しの一歩を踏み出すことで、そのあとの動きや行動が変わることは、勉強や仕事、その他のことにおいてもありえるのではないかと思います。

 まずは、一歩でも動いてみる! 皆さんはどう思いますか?


(ひとりごと第1138号)