【7月13日】不足の不足?
- 公開日
- 2023/07/13
- 更新日
- 2023/07/13
校長のひとりごと
今年度より、「夢講座」という講師の方をお招きしての講演会を年間1回は行うようにしています。「夢講座」は、子どもたちが夢や希望、志を持って生きていってほしい。生きていることの素晴らしさ、人間の素晴らしさ、自分という人間がいかにかけがえがないかを感じてほしい。そしてかけがえのない命をいっぱいに使い、たくさんの人に感謝をしながら、毎日をいきいきと生きていってほしい。何より、子どもたち、先生たちが(保護者の方も)元気や勇気が出るような講演会をしたい!という願いで始めます。
今年度は、10月10日(火)に実施することになりました。講師は、私の前任校でも来ていただいた「腰塚 勇人(こしづか はやと)さん」です。
中学校教師をされていた腰塚さんは、2002年にスキー事故にあわれ、全身麻痺の状態に陥りました。絶望の淵に立たされれ自死まで考えられた末、多くの周りの方の励ましと支えにより、リハビリ後、職場復帰を果たされました。復帰後は、身体の一部に障がいを抱えながらも自分を受け止め、教職を続けられました。ご退職後は、全国をまわり、「命の大切さ」「生きることの素晴らしさ」「夢を持つことの大切さ」などを優しく熱く語られています。2023年3月までで2160回の講演をされています。私自身は、「アンビリバボー」や「テレビ寺子屋」の映像を拝見させていただき、ぜひ、腰塚さんのお話を生で聴きたい!そして子どもたちにも保護者の方にも聴いてほしい!と考え、2年前に前任校で来ていただくことができました。子どもたちも先生方も、保護者の方もたいへん喜んでくださり、中には涙を流している人もいて、本当に勇気や元気をいただけたのです。私は、大野東中の子どもたちにもぜひ聴かせたいと思い、お願いをしたところ、願いが叶い、10月に来ていただけることになりました。会場の関係で、すべての保護者の方に来ていただくことは難しいですが、少しでも多くの方に…と思っています。腰塚さんは、今年5月に4冊目の本、「今こそ大切にしたい共育」を出版されています。その本の一節に次のようなことが書かれていましたので紹介します。
講演で伺った中学校の校長先生からお聞きした話です。最近の生徒たちには、生きる意欲や力が感じられないことが多々あり、その原因の一つは、小さい頃からの「不足が不足していること」だと話してくださいました。「不足の不足?」すなわち「満たされすぎ」です。物質面でも精神面でも「自ら動かなくても誰かがやってくれる。満たしてくれる」という環境。私も親として、思わずハッとした瞬間でした。
ある保護者の方からもこんな話を聞きました。家族みんなで外食に行ったときのことです。「何が食べたい?」と子どもに聞くと、「今、特に食べたいものはない」という答えでした。お父さんは、「自分が子どもの頃は、家族みんなでの外食は一大イベントの一つだったのに…」と、もの凄くショックを受けましたが、それ以上に危機感すら感じたそうです。
この話を聴いた直後でしたが、経営者である友人から「ライオンから野生をなくす簡単な方法を知っている?」と聞かれました。友人は「常に餌を与えておなかをいっぱいに満たしてやること。それが動物園のライオンさ」と教えてくれました。「野生」、すなわち、自らの生死をかけて自然界を生きる動物たち。自分は今、この「野生」を忘れていないだろうか…と思った瞬間でした。そして同時に息子の顔が頭に浮かびました。親として大人として、本当に子どもたちに、身につけさせたい力とは何か?考えさせられました。
さて、みなさんは読まれてどう思いましたか?様々なところで私は言っていますが、未来の予測が困難なこの時代、子どもたちが将来たくましくいきいきと未来を生き抜いていく、未来を担っていくとき、大切な力は何なのか?もちろん、配慮をしたり、支えたり、助けたりすることは大切です。しかしながら、「与えすぎる」「満たしすぎる」と、ちょっと不足しただけで、自分では対応できない人間になりはしないか…。自分からきついこと、たいへんなことに積極的にチャレンジしたり、失敗しても何度も立ちあがったり、くじけたりしない人になっていけるのか。人生100年時代、子どもたちのこれからは相当長いものです。そしてたいへんなこと、苦しいこと、うまくいかないことが山ほどあるはずです。そのときに、自分自身で考え、解決策を探り、周りの人と協力し、行動し、解決の方向にいけるのか。
私たち大人が、子どもたちとの関わり方について今一度振り返ることの大切さを教えてくれているのではないかと思います。