【10月31日】りんごタクシー
- 公開日
- 2023/10/31
- 更新日
- 2023/10/31
校長のひとりごと
今日は、大野城市教育委員会教育長の伊藤啓二先生をはじめ教育委員会の方々が12名、本校を訪問されました。短時間ではありますが、授業参観で子どもたちや先生方の様子も見ていただき、その後、今後の授業や教育活動等について、指導・助言を受けました。
その中で、子どもたちの姿勢や態度の素晴らしさを多くの方から褒めていただきました。いつも言いますが、子どもたちを褒めてくださることが何より嬉しい。そして、若い先生方も含めて、先生方が一生懸命に授業に取り組まれている姿勢も素晴らしかったので、これからますます子どもたちとともに頑張ってほしいと激励していただきました。指導・助言をいただいたことについては、私たちがしっかりと振り返り、見直しながら今後にいかしていきたいと思います。訪問していただいた教育委員会の皆様、ありがとうございました。
さて、昨日、元日本ホスピタリティ推進協会理事長の橋本保雄さんの、「感性を精一杯働かせ、お客様に喜んでいただけることを発想し、それを行動に移す。これがやっぱりプロだと思います」という言葉を載せました。以前、前任校の学校便り等にも載せたのですが、少しでも多くの方にも知っていただきたくて「プロ意識」に関連した話を…。これは、10年近く前の、ある夜の出来事です。
私は、二人の先輩の先生と食事に行ったあと、自宅へ帰ろうとJR大野城駅でタクシーを待っていました。しばらくすると、1台のタクシーが乗り場に到着しました。先輩の先生方は後ろ、私は助手席に座りました。乗り込んだ瞬間、りんごのほのかな香りがしました。運転席側のダッシュボードを見ると、りんごが6個きれいに並べてあったのです。私は、そのことがとても不思議に思えて、運転手さんに質問をしました。「なんで、りんごが並んでいるんですか?」。するとその運転手さんは、こう言ったのです。
『テレビでも5回ほど取り上げていただきましたが、私はだいぶ前からこうやってりんごを乗せるようにしたのです。なぜかというと、お客様に素敵な香りのするタクシーに乗っていただきたかったのです。りんごの香りにたどり着くまでに、様々なものを試しました。最初は、市販の芳香剤。しかし、どれもしっくりこないのです。所詮、つくられた香りなのです。そこで、フルーツの香りに目をつけ、様々なフルーツを試してみました。その結果、このりんごにたどり着いたのです。りんごの香りは、リラックス効果やストレス緩和に効果があると言われています。タクシーに乗っていただく短い時間であっても、お客様に満足してもらいたいのです。自分の勤務が終わると、りんごは長持ちさせるために冷蔵庫にしまいます。そして、この車は私ともう一人の運転手が交代で使用します。もう一人の運転手とも約束をして、嫌な匂いが残らないように、禁煙であることはもちろん、決してこの車の中で飲食をしないようにもしたのです。さらに私は、週に最低2回は洗車をします。一日のうちに2回洗車することもあります。ワックスがけも週に1回は必ずします。とにかく、いつもきれいにしてお客様に満足してもらいたいのです。最近では、私のりんごが腐る前に買い取ってジャムをつくられる支援者の方もいます。また、おかげさまで、私を指名して下さるお客様もたくさんいらっしゃいます』。
「それだけ人気が出たのなら、真似をするタクシーもたくさんいたのでは?」
と私が質問すると、その運転手さんはこう答えてくださいました。
『当然、たくさんいらっしゃいました。ところが、続かないのです。最初のうち、真似は出来たとしても、続けていくにはそれなりの根気やこだわりが必要なのです。ですから、りんごを乗せているタクシーは、今では全国でも私と青森県を走っている1台だけだと聞いています』。
その運転手さんは、終始笑顔で優しく丁寧な言葉で話してくださいました。その話しぶりからも素敵な人柄が伝わってきました。私は、とても感動しました。タクシーにわずかな時間乗って感動するなんて経験はありませんでした。当時私は、タクシーは単なる「移動の手段」としてしか考えていいませんでした。しかし、その運転手さんは自分の仕事にここまでこだわりをもって取り組まれている。どのようなこだわりやサービスをしようと、金額は会社で決められています。しかし、同じ金額を支払うにしても、こんなにも「お客様」のことを考えて準備や対応してくださっているタクシーに乗ることができるなら、支払うときの気持ちも違うなと感じました。私は、運転手さんのその意識の高さに心から驚きました。職は違えども、学ぶべきところがたくさんあると感じました。その運転手さんのこだわりこそが「プロ意識」ではないかと思ったのです。ただ、お客さんを乗せてお金をもらうのではなく、十分に満足してもらい目的地まで送り届けるという「相手意識」、「お客様意識」をもって仕事をする。そして、常に向上心を持ち、努力をし、学び続けている。まさに、「プロ」だとそのとき思ったのです。
私たち教師も「教育のプロ」です。常に向上心を持ち、学び続ける教師でなければなりません。未来を創る素敵な子ども達のために、私たち教師は「プロ意識」「相手意識」を持ち、全力で取り組んでいく必要があると思った貴重な経験でした。