最近の記事はこちらメニュー

最近の記事はこちら

【12月18日】幸運とは…

公開日
2024/12/18
更新日
2024/12/18

校長のひとりごと

 『PHP』という小冊子の特集に、テレビアニメ「イケてる2人」で声優デビューし、「涼宮ハルヒの憂鬱」の朝比奈みくる役で第1回声優アワードサブキャラクター女優賞を受賞された、後藤邑子(ごとうゆうこ)さんという方が寄稿されていました。


 後藤さんは中学三年の春、特発性血小板減少性紫斑病で入院し、主治医の先生から「高校生になるのはあきらめて」と言われ、たいへんショックを受けました。もう人生が終わるのかと絶望し、ただベッドに寝ているだけの生活を過ごしました。そんなとき、お父さんが行きつけの寿司屋さんで「血液学の権威」である大学病院の教授とたまたま出会い、後藤さんを診てくれることになりました。その先生は「普通の生活に戻す。高校生にもさせる」と懸命な治療をし、後藤さんは、復学することができました。薬の副作用で体はむくみ顔はニキビだらけ。学校に行きたくない気持ちもあったそうですが、病棟で寝ているだけの生活に比べればたいしたことじゃないと、どんなことにも躊躇せずに取り組もうとしました。そして、進学先の高校で観た演劇部の公演に興奮し、演劇部に入り活動しました。体育の授業も見学しなければいけない体で芝居の道に進むのは現実的ではないと思いながらも、関わってはいたいと、大学に入ってからは地元のテレビ局でアルバイトをはじめたそうです。そこで出会ったディレクターさんに「声が独特だから、声優って道もあるんじゃない?」と言われ、大学を中退し東京の声優専門学校に、親の反対を押し切って行くことになりました。

 そんなある日、三才年下の妹さんが心不全で亡くなり、喪失感で養成所にも行かなくなったそうです。妹さんの三回忌を過ぎて「妹の人生は短かったけど、決して不幸ではなかった」と思えるようになり、「やりたいことを躊躇せずやろう」と、声優事務所に電話を粘り強くかけ、道が開かれました。そして、「涼宮ハルヒの憂鬱」という作品で人気が出て、アニメだけでなく、ラジオや海外公演などまでされるようになったそうです。

 仕事が増えすぎたこともあってか、2012年に緊急入院され、「二週間後の命を保証できない」と主治医から宣告されますが、絶望するのはまだ早いと、別の病院に転院し治療し無事退院されます。完治はしないのでこれからも病気と向き合いながらの生活だそうですが、常に前向きな姿勢で毎日を過ごされています。


 自分に置き換えたとき、「死を宣告される」「余命宣告をされる」ことはどれぐらいショックでしょうか。想像しただけでも、そのショックは計り知れない気がします。それでも、後藤さんは前向きに毎日をいきいきと過ごされている。後藤さんはこの本の中で、最後にこんなことをおっしゃっています。

「入院中は、ブログには明るいことしか書かないと決めていました。最後に残るのは笑顔がいいと。その悲壮な覚悟を忘れそうなほど、現在、元気な私はやっぱり幸運なのだと思います」

 幸運とは何なのか。物事をどうとらえるか。結局は、「自分次第」であるということです。もちろん何度も落ち込み、絶望感にさいなまれたこともあったとは思いますが、どんな状況であってもあきらめず、前向きに、そのときを精一杯に生きることがどれだけ尊く素晴らしいことかを後藤さんは教えてくれています。