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【2月10日】聴き上手

公開日
2025/02/10
更新日
2025/02/10

校長のひとりごと

 フリーアナウンサーの加賀美幸子さん(84歳)の著書『こころを動かす言葉』の中に「聞き上手とゆとりの関係」というところがあります。アナウンサーになって間もない頃、先輩方の軽妙な会話の様子を見ながら、「うまいなぁ、さすがだなぁ」と感心されていたそうです。絵の上手い人が、いとも簡単に、物の形を捉え、そのまま見事に描けるのと同じように、口をついて自然と言葉が出てくる…。自分にはそんなことはできそうもないと考えた加賀美さんは、じっくりと聞く方にまわろうと考えたそうです。よく聞いていると、今、自分がどう話せばよいのか、内容はもちろんのこと、敬語の使い方、声の調子、緩急、間…、表現の仕方も自然に備わってくる実感があったそうです。そこで、鍵となったのが“ゆとり”だと加賀美さんは言います。


 「どう話すか」より「どう聞くか」…言葉を以て生業とする道の、かなり早い時期にそのことを見に据えたことはある意味で幸せであった。長く、放送という仕事旅を続けてこられたのも、そのせいかもしれないと考えている。

 アナウンサーの仕事は、まず話すことに重点が置かれているが、人や物事の心や内容をどう聞くか、どこまで聞き取れているか。…その人間が見えるのは、そしてその仕事ぶりが問われるのは、話し方というより、聞き方、聴き方ではないだろうか。

 話し方を見れば、どう聞き取っているか、聞き方の様子も簡単に現れてしまう。人間が見えてしまう。しかし、「聴けていれば話し方で苦労することはないのだ」と自らに言い聞かせながらも、実は一方で、ゆとりがなかった時は、聞いていても聴けていないという苦い経験もずいぶんしてきた。

 話し下手より、聞き下手のほうが恥ずかしい。仕事でも日常でも、何かゆとりがないとき、聞ききれていない自らを、いつも反省する。…ゆとり。ゆとりが「鍵」かもしれない。話し上手より聞き上手と大方の人は言うけれど、聞き上手が多いとは全くいえない。誰もが分かっているのに、実際はあまりいないというのは何故なのだろうか。耳を澄ますゆとりがないのであろうか。

 聞き上手が易しい様で難しいのと同様、ゆとりという優しく易しい言葉もつかみ所がない。人はゆとりという言葉を口にするだけで安心してつい通りすぎてしまうのではないだろうか。ゆとりの空間・時間・経済・政治・教育等々…。それも大事だが古今東西の人間の歴史と営みは、もっと違う、人間としてのゆとりを探せよと伝え続けているのではないか。仕事がら多くの出会いがあるが、そういえば、心惹かれる言葉の世界を持っている人の中からは、いつも、ゆとりの心が読みとれるのである。


 以前のひとりごとでも、何度か「聴くこと」の大切さについて載せたことがあります。大ベテランの話すことが仕事のアナウンサーである加賀美さんであっても「聴くこと」がいかに大切なのかを教えてくれています。

“聞いていても聴けていない”

 自分自身を振り返ると、まさにこれなのかもしれません。聞いてはいるが、しっかりと心で受け止め、頭でしっかりと考えるように聴けていないことがどれだけあっただろうかと思います。単に、相手が話しやすいような「聴き上手」というだけではなく、相手のことを理解し、心を開かせ、そして場面によって適切な言葉を発することができる。そのためにも、“心のゆとり”がもてるようにしなければと思います。ただ、私のように「…しなければ」と思っているうちは“ゆとり”なんか生まれてこないような気もしますが…。それでも“心がける”ことがまずは第一歩ですからね。