【6月6日】諦めない気持ちの大切さ
- 公開日
- 2025/06/06
- 更新日
- 2025/06/06
校長のひとりごと
今日は部活動激励会でした。私は、校長の話の中で、私が以前男子バレー部顧問をしていたときに出会い、一緒に戦ったMさんの話をしました。
Mさんは、日頃から何にでもまっすぐに頑張る子でした。3年生の体育祭では、ブロック長をしました。誰にでも優しく、とにかく頑張り屋さんなので、周りから信頼され後輩達からは憧れられ、そして慕われていました。バレー部ではキャプテンを任せましたが、常に練習に対しても手を抜かず、納得がいくまで練習に取り組みました。例えば、「スパイク練習」ひとつをとっても、私が「ラスト1本!」と言っても「先生、もう1本いいですか?」と納得するまで打とうとする子でした。私が指導につけないときでも、決して手を抜かず、部員を鼓舞しながら練習に取り組みました。何より、キャプテンの彼が誰よりも頑張るので、周りも頑張るしかなかったのも事実かもしれません。
そして迎えた夏の大会。筑紫区は、ぎりぎりで優勝して、筑前大会に出場したチーム。区で優勝するくらいだから、能力の高いメンバーが揃っていたのではないかと思われるかもしれませんが、Mさんは当時167cmほど、そして運動が得意というよりむしろ苦手な子もレギュラー、最も小さい子は身長が140cm代、一番大きな子が169cm、チームの平均身長は160cmほど。男子バレーのチームとしてはかなり小さく、周りの先生方からも「今年は厳しいよね…」と言われるチームでした。それでも私は、「きっとできる!必ずできる!」という思いを子どもたちにもしてほしくて、保護者の応援と支援も受けながら、日々練習に励んでいました。
そして筑前大会準々決勝。この試合に勝てば、ベスト4で県大会出場が決まる大事な試合。1セット目を取り、2セット目終盤、何とMさんが足を痛めたのです。ジャンプができないほどの状態になってしまいました。ベンチに彼の代わりを務められる選手はいませんでした。彼は「先生、大丈夫です!」と、ジャンプもできないのに足を引きずりながらプレーしました。相手のミスもあって、何とか勝利を収めました。その後、彼はすぐに病院に向かいました。私は、彼の様子から明日の準決勝・決勝は到底出場できないし、彼がコートにいない状態で勝つことは到底無理だと思っていました。
次の日の朝、集合時間前、彼が職員室の私のところに来ました。そしてこう言うのです。
『先生、今日の試合、出させてください。できるところまでさせてください』
「いや、まだ痛みもあるでしょ?今日は、無理をせずベンチで。そして負けても、県大会に行くことは決まっているから、筑前大会3位の賞状を胸を張ってもらって帰ろう!」
『先生!お願いします。どこまでやれるかわからないけど、後悔したくないんです』
どうしても譲らない彼のお母さんに尋ねました。
『先生、息子がそう言うなら出してあげてください。皆さんに迷惑かけるかもしれませんが、息子はこの大会にかけてきましたから。先生、お願いします』
監督としてそのときの判断は、正しくはないかもしれません。それでも、彼と彼のお母さんの力強い言葉に、私は「よし、わかった。少しでも無理だと思ったら必ず言いなさいよ!約束だぞ」…そう言って、準決勝に臨みました。
相手は、宗像地区1位のA中学校。180cmくらいの選手が3名もいました。試合前のスパイク練習で、強烈なスパイクを打ち込むA中学校を見て歓声まで起きていました。そんな凄い攻撃力をもったA中学校と対戦するのは、平均身長160cmの決して強くは見えない我がチーム。会場中の誰もがA中学校が圧倒的な強さで勝つと思っていたことに間違いありません。しかし、試合が始まると、私がとても心配していたMさんが覚醒したのです。まさに「魂のバレーボール」をするのです。彼が拾って拾って、打ちまくったのです。そして、その姿に、心に共感したのか、チーム全員が魂のこもったプレーをするのです。チーム一丸となって、拾って繋いで、確実に点をとっていく。接戦にはなりましたが、準決勝に見事勝利し、決勝戦。決勝の相手は筑紫区の決勝でフルセットの戦いをしたB中学校でした。一進一退の攻防が続き、セットカウント1対1で迎えた3セット目。中盤から我がチームが抜け出しました。完全に流れをつかんだチームを見ながら、ベンチにいた私は震えが止まりませんでした。彼らと頑張ってきた3年間が思い出され、胸が熱くなりました。そしてゲームセットの笛が鳴りました。見事「筑前地区大会優勝」。「弱小」とか「小さいから(身長が低いから)勝てない」とか、いろいろ言われましたが、子どもたちは凄いことを成し遂げたのです。県大会ベスト8で終わりはしましたが、頑張って頑張って頑張り抜いた結果、優勝旗を2本もとって、「やればできる!」ことを証明してくれました。県大会で負けたとき、彼はしばらく泣いていました。
『先生、すみません…』『みんな、ごめん…俺がもっと頑張ってたら…』。
「いや、違うよ。あなたが常に前向きに誰よりも頑張ってくれて、そしてこのチームを引っ張ってくれたから、ここまでこれたよ。こんなにも素晴らしい思いをさせてくれてありがとう。みんなあなたに感謝してるよ…」。彼らとの夏が終わりました。
日本一になるチーム以外は、皆どこかで負けます。そのとき、悔しかったとしても「自分は頑張れた。本気で取り組んだ」と思えるかが大事です。頑張り抜いたあとの悔しさはまた次の目標へと繋がります。
彼は頑張ることの素晴らしさ、諦めない気持ちの大切さ、人のせいにせず仲間や周りへの思いやりや気遣いなどの大切さを教えてくれました。
彼はその後、高校でもバレーを続け、福岡県の国体の代表選手に選ばれたり、社会人になっても全国大会に出場したりしていました。あるとき、「今度結婚しますので招待状をもって伺ってよろしいですか?」との連絡があり、奥様と学校に挨拶に来てくれました。結婚披露宴では、私なんかを来賓席に座らせる気遣いまでしてくれました。どこまでも素晴らしい彼に改めて感動させられました。
いよいよ明日から、陸上競技大会を皮切りに中体連の大会、吹奏楽コンクール等が実施されます。最後の最後まで諦めず、すべての力を出し切ってほしいと切に願います。
がんばれ!大野東中の子どもたち!!
(ひとりごと 第1032号)