【6月20日】慮る(おもんばかる)
- 公開日
- 2025/06/20
- 更新日
- 2025/06/20
校長のひとりごと
松浦弥太郎さんの『自分で考えて生きよう』の「相手を気遣う魔法の言葉」からです。
「おとなりに失礼します」
ある日、バスのシートに座っていたら、初老の男性がこう言ったあとに会釈し、空いていたぼくの隣に、すっと腰を下ろした。しかも、シートへのお尻の置き方が、隣のぼくに振動を与えないようにする細やかな気遣いもわかった。男性の所作があまりにも自然ですてきだったせいで、ぼくも思わず会釈して、「こちらこそです」と小さな声で挨拶した。その出来事は、その日だけでなく、ずっとぼくの心の中に、すてきな出来事として残った。
バスや電車で、自分の隣にどすんと腰を下ろして知らんぷりをされても、まあ、それはよくあることだし、頭にくることではない。けれども、あんなふうに、すてきなマナーを身につけている人に接すると、改めて、公の場でのマナーの大切さを思い知った。本当に。
「おとなりに失礼します」。なんてすてきな言葉だろう。
バスや電車だけでなく、病院の待合室や、飲食店など、他人と相席になる機会はたくさんある。そんなとき、このように相手を慮った所作と言葉を、誰もが身につければ、ぼくがそうだったように、言われたほうは感謝の気持ちが自然に湧いて、「こちらこそ」という言葉が、口からすっと出て、その場は和だろう。ぼくが感心したのは、単なるマナーだけでなく、「おとなりに失礼します」と言った、男性の言葉遣いである。言葉は魔法というけれど、まさにぼくは、そのたった一言の魔法で心が癒されてしまった。その一言が言えるかどうか。ぼくは男性の姿を思い出しながら自問した。真似でもいい。「おとなりに失礼します」が言える人になりたいと思った。
タイトルの「慮る」とは、「思いを巡らす」とか「相手の状況や感情について深く考え、想像し配慮する」という意味です。
混雑していても、荷物を座席に置き、イヤホンからは「シャカシャカ」と音楽が漏れ聞こえ、二人分の座席を占領して座っている方を見かけることもあります。周りの方が明らかに迷惑になっているという状況も考えず、大声で話す方がおられます。肩がぶつかっても、「すみません」とも言われない方がおられます…。
一方で、先日私が電車に乗っているとき、近くに座っていらっしゃった高齢の女性の方が、目の前に乗ってこられた別の女性の方が座りやすいようにと、少しだけ横にずれて座りなおされました。するとそれに気付いた女性は「ありがとうございます」と言って座られました。さらに、高齢の方より先に降りられることになったその女性は、「ありがとうございました」と笑顔でお礼を言われ降りていかれました。
このように、日常生活において、その人の言葉や所作で、周りの人の気持ちがあたたかくなったり、逆に不愉快になったりする場面がたくさんあります。「おとなりに失礼します」とまではいかなくとも、私自身は「相手を慮(おもんばか)った所作や言葉かけ」がもう少しできるようになりたいと思います。
(ひとりごと 第1042号)