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【6月25日】おもてなしの心

公開日
2025/06/25
更新日
2025/06/25

校長のひとりごと

 松浦弥太郎さんの著書『自分で考えて生きよう』の「美しき作法 大切に」からです。


 先日、江戸時代から続く日本料理店に食事に行った。その店では畳敷きの大広間にお膳が置かれ、大勢の客がそこで食事をいただく様式であった。座布団を敷いてあぐらをかいたり、正座をして食事をいただいたり。今と昔では着ている服は違うだろうけれど、江戸時代もきっとこんなふうに皆和やかに食事をしていたのだろうと想像できた。そんな気分でいたら、一人の男の子が母親にぴしゃりと足を叩かれ叱られていた。

「人様に足を向けてはいけません」

 と母親は言った。男の子はきっと畳がうれしかったのだろう、足を伸ばし、その足の裏がこちらに向けてあった。

「すみません、失礼しました」

 母親はこちらに頭を下げた。

 私も子どもの頃に同じように叱られたことがあった。当然、その頃は椅子の生活ではなく、畳に座る生活であった。座布団を踏んではいけないともよく叱られたものだ。座布団はお客様へのもてなしであるから、もてなしの心を足で踏むとはなんたることかと。

 畳の縁(へり)や敷居も決して踏んではいけないと教わった。敷居はその家の象徴ともいわれ、そこを足で踏むことは失礼にあたった。畳の縁も同様である。縁に家紋が入っているのを見たことがある人もいるだろう。

 布団の枕元を踏んではいけないとか、人や物を足でまたがないとか、ご飯に箸を突き刺さないとか、人を指ささないとか、こんなふうに子どもの頃は大人からうるさく叱られたものだ。とくに食事中の作法は厳しかった。

 とはいうものの、こういうしつけは、これからもずっと大切に伝えていきたい、日本の美しい作法であると私は思っている。


 こういう作法的なことや「おもてなしの心」は、ある意味日本独自のものだと思います。この文章を読んで「私も同じこと言われてきた」とか「自分自身も気をつけているし、自分の子どもにも言ってる」という方もおられれば、「こんな作法は知らない」とか「そこまでする必要はない」など様々なのではないかと思います。しかし、日本特有の「おもてなしの心」があるからこそ、「日本はどこも美しく、人々は親切で素晴らしい!」と海外の方からも絶賛され、たくさんの方が来日もされているのではないかと思います。また、そういう日本独自の作法やマナー、気遣いや気配りによって、心があたたかくなったり、嬉しい気持ちになったりするのではないかと思います。「時代は変わったから…」とか「海外では違うから」とすべてを否定し、なくしていくことは私も違うのかなと思います。時代とともに変わっていくことはあっても、また様々な“価値観”はあっても、相手を思いやり、敬意をもって対応することはこれからもずっと大切にしていきたいと思います。

 皆さんはどう思われますか?


(ひとりごと 第1045号)