学校日記

【9月6日】スポーツは世界を変える

公開日
2021/09/06
更新日
2021/09/06

つぶやき

 昨日は、太宰府市在住の道下美里選手(視覚障がいT12世界記録保持者)が、東京パラリンピックのマラソンで見事優勝をしました。以前、大濠公園でトレーニングを積む様子をテレビでみてはいましたが、本当に素晴らしい結果でとても嬉しい気持ちになりました。道下選手は「最高の伴走者と最強の仲間がいたのでここにたどり着きました。みんなで祝福したいです!」と満面の笑みを浮かべながら感謝の気持ちを伝えていました。道下選手の素敵な笑顔をみているだけで、私たちが元気や勇気をもらい、自然と笑顔になれます。本当におめでとうございました!

 さて、昨日で東京パラリンピックも終了しましたが、今日は、パラリンピック陸上男子走り幅跳び世界記録保持者のマルクス・レーム選手(ドイツ)のことを書かせていただきます。
 レーム選手は、14歳(2003年)のときに、ウエークボードの事故で右膝下を切断しました。その後、陸上クラブのパラ担当ディレクターに見初められ、「これは“未来への投資”だ」とスポーツ用の義足を渡され、20歳から本格的に走り幅跳びを始めました。2009年の国際大会で優勝。2012年ロンドン大会・2016年リオ大会で優勝。次々に世界記録を更新し、今年6月の欧州選手権でさらに8m62cmをマークしました。そして今回の、東京パラリンピックでは8m18cmで見事に優勝しました。レーム選手の活躍は「障がいをもっている人は、身体的ハンディゆえ、レベルは健常者に及ばない」という見方を変えました。
 レーム選手は、五輪とパラリンピックが可能な範囲で共存することを求めています。特例でもいいからと国際オリンピック委員会にも訴え続けてきました。しかし、認められることはありませんでした。議論になったのは「義足の優位性」だそうです。その高すぎるパフォーマンスは「テクニカル(道具)ドーピング」と言われ、「公平性」を問うことになりました。公平性を科学的に証明することができず認められなかったのです。科学的に証明することは大学などの研究機関の協力と莫大な費用と期間がかかると言われています。それは選手にとってかなりの負担となります。しかし一方で、義足をつければ誰でも8mを跳べるかというと決してそんなことはありません。同じような義足の選手が、感覚のない義足を上手に操り、体の一部のように扱うことはとてつもなく難しいし、それができる唯一の幅跳び選手が、レーム選手なのだと話されていました。レーム選手は、五輪に出て優勝することが目的ではなく、「共生」が実現した社会を目指しているのです。

 昨日、あるテレビ番組で、レーム選手の紹介があっていました。番組の中で、レーム選手の「脳」をMRIで検査した東京大学の中澤公孝教授の談話が流れていました。
 通常、人間は右半身を動かすときには左脳が、左半身を動かすときには右脳が活動し信号を出すと言われています。そこで、レーム選手の義足ではない左足を動かすと当然のように右脳が動いている様子が映し出されました。ところが、ブレード(競技用義足)を装着した右足を動かすと、通常ではあり得ない両側の脳が活発に信号を出していることがわかったというのです。中澤教授がいうには、レーム選手が繰り返し繰り返し練習したことで、「脳の再編成」が起こったのではないかということです。健常者を超える「超人」的な能力が出てきたといえるそうです。中澤教授は、パラアスリートを調べることで、「脳がどこまでも変化する可能性」や「人間が本来持っている可能性」についてわかるのではないかと言っています。
 レーム選手は「私は限界を設けない」といつも自分に言い聞かせているそうです。また、レーム選手と共に練習をしていた元パラリンピックメダリストは、こう言っています。
「私たちのトレーニングは、細かい石を積み上げるような作業なのです。助走の速度、ステップ一歩一歩の幅、力の変換の改善など多くの組み合わせです。それらに取り組み、ようやく数cmの記録を向上できるのです。“私には障がいがあるが、私の妨げとなることは許さない”とレーム選手は繰り返し語っています。“障がいにしばられるな”と自分に語りかけているのです」
 番組の最後は「脳を再編し、人類を進化させる超人達は、未来を見据えています」の言葉で終わります。

 レーム選手は私たちに、「人間の無限の可能性」「小さなことを積み重ねる大切さ」「共生」について教えてくれています。誰にも負けない努力をし結果を出し続けている人の言葉の重さと深さは計り知れません。少しでもそんな心持ちと姿勢を私たちは学び、自分に言い訳をせずコツコツと努力していくことはとても大切なことだと思います。
 最後にレーム選手の言葉です・・・
「『スポーツは世界を変える力がある』という言葉が好きだ。五輪選手とパラ選手の共生が示せれば、社会でもそれが普通だと学べる」