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【12月1日】キノコ

公開日
2025/12/01
更新日
2025/12/02

校長のひとりごと

  先月発売された、致知出版社の『1日1話、読めば熱くなる365人の人間学の教科書』の「異質なものの役割」(ハーバード大学・京都大学教授 広中平祐氏)からです。


 ギリシャもね、文化が伸びていた時期は、ギリシャの人はものすごく放浪(ほうろう)しています。ピタゴラスなんかも、あちこち旅して、ある時期はどこにいたかわからないほどです。それから、数学の元祖といわれるタレス。これもメソポタミアに行ったりエジプトに行ったり、実にあちこち歩いてる。歩いて何をしているかというと、商売をしたり、行った先で勉強して、帰ってきて見せびらかしたり、さらに磨きをかけて向こうにまた出掛けていって自慢したり、といったことなんですがね。いずれにしてもよく歩いています。

 ポアンカレという数学者が、面白いことをいっています。ポアンカレは、「クリエイションというのは、シャンピニオンのようなものだ」といっているんです。シャンピニオンというのは菌根、かびですね。これはいい条件が与えられると、根だけでどんどん繁殖できるんです。ただ、直径五、六十メートルぐらいになると、老化して死に絶える。ところがね、根が広がっていくうちに、石にぶつかったり、木のヤニの刺激を受けたり、木の根にぶつかったり、あるいは突然温度が変わる季節になったりと、いろいろな障害にぶつかるとね、そこで、第二の繁殖手段に出るわけですよ。つまり、キノコになるんです。それで、キノコになって胞子をばらまいて繁殖していくんです。順調に広がってきた菌が障害にぶつかって、悩んだ末の姿がキノコなんですね。

 で、ポアンカレはね、こういうわけです。つまり、あんまりほじくるんじゃなくてね、いい環境を与えて、蓄積をつくってやらなきゃいかん、と。だけど、それだけやってたら駄目だ。どっかで、逆境というか、異質な刺激を与える。そうしないと、キノコはできない、と。


 「生き方の教科書」「仕事の教科書」に続く「人間学の教科書」です。まだ読み始めたばかりですが、たくさんのことを学びたいと思っています。「人間学」…、本校では「にんげん学」として、月に1回程度ではありますがすべての子どもたちへ向けて、先生方が自分の経験や学びをもとに、さまざまなお話を全校生徒にしてもらっています。先生方自身の考え方、失敗談、苦労話、大切にしていること、子どもたちに考えてほしいことなど、私たち大人もたいへん勉強になることばかりです。体育館の空調工事が入りましたので、3月まではお休みします(オンラインではなく、対面で行いたいという私の強い思いがありますので…)。

 さて、ポアンカレという人は、「創造は『蓄積』と『突然の飛躍(ひらめき)』の組み合わせで生まれる」と言っています。まずは「蓄積」することなのですが、これは例えば、「本を読む」「いろんな経験をする」「データを集める」「ゆっくり考えを広げる」「こつこつと勉強する」ことなどを通して、創造するための“蓄え”をする。

 そして、「異質な刺激」や「問題との衝突」「想定外の困難」「挫折」などによって、創造するためのスイッチが入る。このことが意味するのは、平穏な毎日よりも、トラブルのときに新しい発想が生まれやすかったり、自分の得意分野でないことに出会うことで予期せぬ発見があったりするということ、すなわち、「逆境」や「異物(異質なもの)」が、新たな「創造」を生み出していくということだと思います。

  不勉強な私は、キノコのこともよく知らなかったのですが、よい環境の中で「菌糸」を育て、それが、様々な環境の変化によって、「キノコ」となっていく。「創造」とは、順調な道のりから自然に生まれるものではなく、蓄えたもの(努力してきたこと)が“困難との出会い”によって、突然あらわれる生命力のようなものだということを、ポアンカレは教えてくれているのだと思います。

 やはり、大切なことは、「努力し続けること」「チャレンジし続けること」、そして、「たくさんの失敗や困難を経験すること」…そのことが、大きな成長と成功へとつながっていくということ…人間の世界でもキノコの世界でも一緒なのですね!


(ひとりごと第1125号)