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【12月4日】最高の愛情

公開日
2025/12/04
更新日
2025/12/04

校長のひとりごと

 致知出版社の『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』の「一度だけ、大声をあげて泣いたこと」(さくら・さくらんぼ保育園創設者 斎藤公子さん)からです。


 保育の仕事に携わって約60年。この間、健常児以外にも、障がいを持って生まれた子どもなど、実にいろいろな子を預かってきました。しかし、入園希望を断ったことはありません。保育は命を預かる仕事です。常に命懸けて臨んできました。それだけに一人の人生が花開いた時の喜びは、それまでの苦労を忘れさせてくれるものです。

 私は一度、大声をあげて泣いたことがあります。「さくら保育園」を立ち上げて間もない頃、骨と皮だけのように痩せこけた東京の乳児を、ある事情で預かることになりました。その乳児を私は毎晩抱きしめて眠らせ、その子もまた私をとても慕うようになりました。ところが、年長になった時、その子の父親が突然来て、連れて帰ったのです。親権がある以上、どうしようもありません。私は体が引き裂かれるようでした。グッと我慢したものの、ついに堪えきれなくなって我が家に帰り、人知れず大声で泣いたのです。

 その子がすっかり見違えた少年になって久々に園に顔を出してくれたのは中学生の時でした。以来、時々園を訪れては園児と遊んでくれるようになりました。さらに時を経て、成人したその子からある時、連絡が入りました。結婚するので主賓の席に座ってほしいという通知でした。私は喜んで出席し、スピーチでは自分が大泣きした時の話をしました。彼は私の話を神妙な表情で聞いていましたが、式が終わり皆を見送るや、私に駆け寄り抱きついて泣きじゃくるのです。見ると彼の奥さんも泣いていました。長年の胸のつかえが取れたのに違いありません。いつまでも私の心に残るさわやかな思い出の一つです。

 保育に携わった60年を振り返る時、つくづく感じるのは、幼いうちから見るもの、聞くもの、触れるものは最高のものを提供したいという思いです。それは保育の環境だけに限らず、子どもたちに心からの褒め言葉と最高の愛情を注いであげることです。そうすれば、その子の人生は必ず豊かになることでしょう。あの子との出会いはまさにそうだと思います。


私の両親は、私のためにどれだけ愛情を注いでくれただろうか?

私は、溢れんばかりの愛情の中で育ってきて、そのことに対する感謝の気持ちを返せたのだろうか?

私に出会った多くの方々にどれだけお世話になりどれだけのことを教えてもらったのだろうか?

今、私は少しでもその恩返しや恩送りができているだろうか?


私が出会った子どもたちに、どれだけの愛情を注げたのだろうか?

子どもたちが笑顔になるように、幸せを感じられるように、心が豊かになるように、どれだけのことができただろうか?


 出会いは奇跡です。かけがえがないです。今まで出会ったすべての子どもたち、すべての人との出会いが奇跡です。今できることを精一杯、一日一日を大切に…そう思います。


(ひとりごと第1128号)