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【5月9日】ここにいるだけで…

公開日
2023/05/09
更新日
2023/05/09

校長のひとりごと

 今、学校では元気な声が響いています。体育の時間の大縄跳びの練習が行われています。クラスみんなで心を一つにして跳ぶ大縄…。時間制限がなければ200回以上跳ぶためのコツや回し手のコツなどはあります(先生方には、“藤井流大縄の極意?”として配付しました…)。しかし、一番大切なことはクラス全員が友達のためにも跳びたいと思うことです。担任の先生、そしてリーダーたちの思い、クラスみんなの思いが一つになってこそ跳べます。一人でもどうでもいいとかやる気がないと絶対に跳べません。お互いへの思いやりもとても大切になります。
 私が2年生を担任したとき、運動がとても苦手なA君がいました。50mが15秒くらいかかる子でした。大縄跳びの練習でも本当にきつそうで、彼が途中でへたり込み、なかなか私のクラスは跳び続けることはできません。「少し休もうか?」とその子に声をかけると、首を横に振り「…大丈夫です。僕が一番頑張らなきゃ…」と彼は絶対に諦めませんでした。なかなか跳べずにあきらめ顔の子どもたちも、その子が汗だくになりながら必死で跳ぶ姿に、もっと自分たちも頑張らなきゃと思ったようです。子どもたちは、たとえ、誰かが縄にかかって止まっても決して責めることはありませんでした。むしろ励ましの声がどんどん大きくなるのです。A君も、周りから励まされ毎日ヘトヘトになりながら練習に取り組みました。そして、彼を一番支えたのが、時々不用意な行動をとり私からよく叱られているB君でした。
 迎えた本番、A君のすぐ後ろにはB君がいます。スタートのピストルが鳴りました。「いーち、にーい、さーん、…」、クラスの子はもちろん私も全力で声を出し続けました。一番心配しているA君の様子を見ると、なんと後ろのB君が、1回跳ぶごとに「がんばれ!」「負けるな!」「跳ぶよ!」「跳べる!」「ファイト!」とA君を全力で励まし続けていたのです。私は感動しました。仲間を思うB君の姿に胸が熱くなりました。結果は「103回」。優勝はできませんでした。しかし、私のクラスの子どもたちは本番で初めて100回の壁を越えて跳べたことに感動し、たくさんの子が号泣していました。B君に「○○ちゃん、めっちゃ頑張ったね。すごいよ!」と声をかけられたA君は、充実感いっぱいの笑顔でした。優勝できなくたって、全員が一つの目標に向かって全力を尽くすことの素晴らしさ、そして仲間を信じ思いやる気持ちや行動の大切さを子どもたちは学んでくれたと思います。これこそ、大縄跳びの醍醐味です。
 もう一つ、体育祭のときのエピソードを…

 3年生ブロックリーダーの彼は、何より日常生活を頑張っていました。誰よりも挨拶をし、誰よりも授業に集中し、誰よりも掃除を頑張りました。誰にでも優しく他の人の仕事まで手伝うなど、気配りも忘れませんでした。体育祭練習では、誰よりも走り、誰よりも声を出し、的確な指示を出しながら取り組みました。きっと相当疲れているはずなのにいやな顔ひとつせず、弱音を吐かず本番まで全力でリーダーとして活躍しました。そして、当日…精一杯頑張った彼(私)のブロックは、総合順位では最下位でした。ブロック解団式のとき、多くの生徒が下を向いて泣いている中、彼は最後にブロックの仲間にこう語りかけました。

「みなさん、顔を上げてください。あの得点ボードを見てください。あの点数には、全員の頑張りが詰まっています。1番だろうが、最下位だろうが、みんなが一生懸命頑張ってくれたから、その結果の点数が入っているのです。最下位でも点数は入っています。確かに優勝はできませんでした。でも、みんながいてくれたおかげであの点数になったのです。だから、みなさんは、ここにいるだけで価値があるのです。みなさんと頑張れたことを僕は誇りに思います。だから、胸を張ってください。顔を上げてください。みなさんと共に過ごした時間は、僕の『宝物』になりました。こんなリーダーについてきてくれて本当にありがとうございました!」

 深々と頭を下げる彼に割れんばかりの拍手が送られたのは言うまでもありません。ブロック全体があたたかな涙と笑顔に包まれました。そのあと、「藤井先生からお願いします」と言われましたが、私はもう言葉が見つかりませんでした。私は彼に、そしてそこにいた子ども達にただ、「こんなにも素敵な“思い”をさせてくれてありがとう。君たちは本当に素晴らしい!」とだけ伝えました。
 「みなさんはここにいるだけで価値があるのです…みなさんと共に過ごした時間は僕の“宝物”です…」、こんなにも素敵な言葉が子どもから発せられる。私は今、思い出しても涙が出そうになります。こんなに素敵な子どもたちと過ごせた時間は私にとっても“宝物”です。子どもたちへの感謝の気持ちでいっぱいになります。
 大縄跳びでも何でも、子どもたちが全力で取り組んでくれて、最後は順位なんて関係なく「一緒に頑張れてよかった」「ここにいられてよかった」「仲間がいてくれてよかった」「大野東中でよかった…」、そして、「私の命は尊い、私の存在もかけがえがない」そんなことを思ってくれたらと思います。
 さあ、子どもたちはまた、どんな頑張りを見せてくれるか…楽しみです。