最近の記事はこちらメニュー

最近の記事はこちら

【11月7日】敬と怠

公開日
2023/11/07
更新日
2023/11/11

校長のひとりごと

 人間学を学ぶ雑誌「致知」に「敬、怠に勝てば吉なり」という特集が載っていました。本誌にはこう書かれています。
 「敬、怠に勝てば吉なり 怠、敬に勝てば滅ぶ」
 東洋古典『小学』にある言葉である。敬(つつ)しみの心が怠(おこた)りの心に勝てば吉だが、逆に怠りの心が敬しみの心に勝てば、その結果は滅びに至る、の意である。時を越え国を越えて不変の真理である。「敬」には“つつしむ”の他に“真心を込めてつとめる”の意味もある。「現実に甘んじないで、より高きもの、より貴きものを求める心が敬である」と、安岡正篤(まさひろ)師は説いている。…(後略)…

 このことに関連して、今年7月の世界水泳選手権(福岡市開催)にて、アーティスティックスイミング女子ソロ種目で二大会連続二冠の偉業を成し遂げた乾友紀子選手と、そのコーチを務め、“シンクロ界の母”とか“メダル請負人”などと称される井村雅代さんの対談が載っていました。
 小1でシンクロナイズドスイミングを始めた乾選手。小学6年生のときに井村シンクロクラブに移籍し、それが井村コーチとの出会いであり、そのあとの乾さんの運命を変えていきます。一度日本代表のコーチを離れ、中国代表のコーチとなりそこでも結果を出された井村コーチ。その後、日本代表のコーチに戻られ、今回は乾選手専属の代表コーチを務められました。そして、見事乾選手は、2位とも大きな点差をつけての優勝となったのです。この記事の中にある井村コーチの言葉をいくつか紹介します。
◆私と一緒に練習して、ああ地獄のような練習が終わってよかった、というような意識のレベルでは絶対にメダルは取れない。大事なのはその練習の後、自分は何をするかを考え、さらに自分で練習するようでなければメダルは取れませんからね。
◆普通は見えるところだけをこだわるんですけど、違うんですよ。見えないところにこだわったときに水の上の見えるところもすごい演技ができる。だから、一人しか教えない特権をいかして、とことんみえないところにこだわりました。水の中の動きは採点に入っていないんですけど、土台がしっかりしていなかったらやりたい演技が表現できないというのは実感しています。
◆(勝利を掴む人と掴めない人の根本的な差についての質問について…)自分がここで限界だと考えていない人、チャレンジすることを面白がる人、それが勝利を掴む人だと思います。自画自賛する人はダメ。まだまだ上があると課題を突きつけられたときに、えっ私はこれだけ頑張ったのにとか思う人は絶対に勝利は掴めませんよ。よし次行こう、これやってみようと、目の前に現れる課題を面白がっていく人はどんどん前に進んでいきます。
◆私が見ていて感じる彼女の強みは、とにかく素直。それは他の選手と全然違いましたね。私が言ったことに対してポンとすぐ反応してくれる、やろうとしてくれる。だから、無駄な時間がいらないし、どんどん伸びていく。反対に、自分の理屈を通してこちらが提案したことを素直に受け入れない人がいて、私はそういう人は心のシャッターを下ろしていると言っているんです。私はそういう人に対してストレートに「損だよ」って言います。「一回受け入れたら?」「自分を守って得してるようだけど、損してるよ」「理屈はいいからまずやってごらん」「人の助言を一回試す勇気をもちなさい」「何でも面白がってやらな」って。いつも言うんですけど、人間に限界ってないんですよ。自分の心がつくっているだけです。素直な人って自分の可能性を引っ張っていくことができるんです。
 
 スポーツであれ、文化的なものであれ、勉強であれ、とても参考になる言葉の数々だと思いませんか?井村さんは、たいへん厳しいことでも有名ですが、ただ厳しいだけではありません。元中学教師の井村さんは、荒れた学校でも常に体当たりで生徒と向き合ってこられました。本気でぶつかれば必ず心は通じると…。もちろんコーチとして、毎日12時間にも及ぶ練習にも付きっきりで指導し、どうしたらできるようになるかをきちんとアドバイスをする。また手書きのメッセージで選手を激励したり、本番の日の選手にかける言葉を徹夜して考えたり、選手への愛情もとても深いことで知られています。だからこそ、選手も井村コーチを信じてついてくるし、その期待に応えるべく、選手がしっかりと結果を出し続けているのだと思います。
 子どもたちには、「素直であること」「失敗を恐れずチャレンジすること」「自分の可能性を信じ粘り強く取り組むこと」「自分を過小評価し、勝手に限界をつくらないこと」「見えないところや普段の生活にもこだわること」などの井村さんの言葉をヒントに、これからの日常生活を送ってほしいと思います。そして私たち大人も、井村さんの言葉の本質を理解し、子どもたちを大きな愛情で包み、指導者として、また、大人として日々精進しなければと思います。