【11月22日】まっすぐに、ひたすらに…
- 公開日
- 2023/11/22
- 更新日
- 2023/11/22
校長のひとりごと
月刊誌『致知』に阿部クリニック院長である阿部憲史さんのインタビューが載っています。阿部さんは医師を目指し通っていた大学時代、ラグビーの試合中に頸椎を骨折し、車いす生活を余儀なくされました。入院中、絶望感から看護師さんが食べさせてくれたご飯をわざと吐き出して困らせたり、面会に来てくれた友人を追い返したり、付き添ってもらっていた母親と激しい言い争いをしたりしていました。リハビリ中も、その病院の敷地の奥に行き、壁に向かって泣いていたそうです。
阿部さんは「おそらく絶望から生まれ変わっていく過程、自分が生まれ変わっていく過程においては、過去を捨てていくという作業が必要だったのだと思います」と、語っています。阿部さん自身が苛立っても周りを困らせるようなことをしても、担当医の先生も看護師さんもみなさんが受け入れてくれたことが、精神科医になり多くの患者さんと向き合うときの大切な教訓になっていると話されています。事故から三年後に復学し、周りのたくさんの方々にサポートされ、見事医師の国家試験に合格されたそうです。国家試験に合格後、反発していたお母様に「丈夫に産んでもらったのに、すみません」と謝り、お互いのわだかまりもとけたと話されています。
研修医をされたあと、大学病院の精神科配属となり、見て、聞いて、話してという自分ができる能力を最大限に生かして頑張られました。その後、37歳のときに大学教授の方の後押しで、自宅のある山形で開業され現在に至っています。そんな阿部さんの言葉をいくつか紹介します。
◆クリニックには比較的若い患者さんが多いですが、その多くが自分らしさがありません。会社や学校で伸び伸びと自分を表現できず、いつも窮屈な気持ちでいるようです。ですから、そんな患者さんたちが私の診察を受けて、以前よりも自己表現できるようになっていく姿を見ることが私の大きな喜びです。若者はSNSなどで繋がっているようでも実際には孤独であることも多いです。孤独を支えながら、就業、結婚、自立へと導きたい…
◆私は医師として活動していますが、車いすから降りたら四肢障碍(しししょうがい)の患者であり、周囲に誰もいなかったらきっと数日で息絶えてしまう。「こんな弱い存在でも皆の力に支えられて仕事ができ、君とこうして真剣に向き合っているんだ」という正直な思いを若者にも伝えることで、気持ちが通じ合い、相手に力が与えられるように感じています。
◆医師として活動していると、周囲には立派な人間のように映るかもしれません。しかし、私の介護で疲れた妻の顔を見るときなど、自分を肯定できなくなるんですね。仕事に人生をかけている自分と、生きていたくないと落ち込んでしまう自分。そこにどう折り合いをつけていくか。これは私の永遠のテーマでしょうね。
◆私は「まっすぐに、ひたすらに」という言葉が好きなんです。両親の生き方から教えられたのか、ラグビーで学んだのか、いつしかそれが習い性(ならいせい:習慣にしていることでついには生まれつきもっているかのようになること)になっていきました。医療をする上で忘れてはならない誠実さ、それはひたすら努力する中で生まれるものだと思います。人の命を扱う人間は、それくらいの姿勢でなくてはいけないし、これからもその生き方を貫く決意でいます。
ラグビーをずっとされるほどのスポーツマンであった阿部さんが車いす生活になったときの絶望感・喪失感は計り知れません。それでも医師になるという夢を諦めず、その医師を貫き、患者さんのために誠心誠意尽くされていることに心より敬意を表します。時に、落ち込まれる自分、その弱さとも真剣に向き合い乗り越える強さ…。本当に素晴らしいと思います。
阿部さんが大事にされている言葉、「まっすぐに、ひたすらに」…素敵な言葉ですね。私は「ひたむきに…」という言葉が好きで、そうありたいと思っています(未熟な私はまだまだ足りませんが…)。そして、阿部さんも話されているように、自分の弱さや弱点を認め、つまずきながらも乗り越えていく努力をすることが大切なのだろうと私は思います。それぞれが、阿部さんの生き方や考え方から学び、自分の生き方にいかせたらと思います。