最近の記事はこちらメニュー

最近の記事はこちら

【1月30日】“おかげさま”

公開日
2024/01/30
更新日
2024/01/30

校長のひとりごと

 月刊誌「致知」の編集に携わっておられる藤尾秀昭さんという方が監修された『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』という本があります。その中の、2012年、ノーベル生理学・医学賞を受賞された京都大学iPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥さんの書かれたコラム「“おかげさま”と“身から出たサビ”」を紹介します。

 私は中学の頃から病弱で、中学に上がった時も、ガリガリの体型でした。そんなんじゃダメだと父親に言われまして、柔道部に入ったんです。高校を卒業するまでの六年間、一所懸命に取り組みました。柔道だけに限りませんけれども、普段の練習は実に単調なんですね。毎日2、3時間ほど練習しましたが、とにかく苦しいし、楽しくない。その上、柔道は試合が少ないんです。野球やサッカーはしょっちゅう試合があるからモチベーションを保ちやすいと思うんですけど、柔道の場合、365日のうち360日は練習で、残りの5日が試合。試合に勝ち進めばいいですけど負けたらまた半年間はひたすら練習をする。その単調さに負けない精神力、忍耐力はものすごく身につきました。これは今の仕事にも生かされています。研究こそまさに単調な毎日で、歓喜の上がる成果は一年に1回どころか、数年に1回しかありません。柔道というスポーツを経験したことは非常によかったと思っています。
 もう一つ私にとって大きかったのは母親の教えです。
 高校2年生のときに二段になったのですが、その頃は怪我が多くて、しょっちゅう捻挫や骨折をしていました。ある時、教育実習に来られた柔道三段の大学生の方に稽古をつけてもらったことがありましてね。投げられた時に、私は負けるのが悔しくて受け身をせずに手をついたんです。で、腕をポキッと折ってしまった。その先生は実習に来たその日に生徒を骨折させたということで、とても慌てられたと思うんです。私が病院で治療を終えて帰宅すると、早速その先生から電話がかかってきて、母親が出ました。その時、「申し訳ないです」と謝る先生に対して、母親は何と言ったか。
「いや、悪いのはうちの息子です。息子がちゃんと受け身をしなかったから骨折したに違いないので、気にしないでください」と。当時は反抗期で、よく母親とケンカしていたんですけど、その言葉を聞いて、我が親ながら立派だなと尊敬し直しました。
 それ以来、何か悪いことが起こった時は、「身から出たサビ」、つまり自分のせいだと考え、反対にいいことが起こった時は「おかげさま」と思う。この二つを私自身のモットーにしてきました。上手くいくと自分が努力したからだとつい思ってしまうものですが、その割合って実は少ない。周りの人の支えや助けがあって初めて、物事は上手くいくんですね。

 どんな仕事でもきっと「忍耐力」が必要です。本当に地道で目立たない仕事もたくさんありますが、それを粘り強く継続していくことで成果が表れます。山中さんは、柔道というスポーツを通してその力を身につけたとおっしゃっています。そして、コラム後半の「“おかげさま”と“身から出たサビ”」という言葉が私には、とても心に刺さりました。
 「感謝」が大事と言いながら、どれだけ人に感謝しているだろうか。どれだけ感謝を言葉や態度・行動に表しているだろうか。一方、イヤなこと、悪いことが起こると人のせいにしていないだろうか。自分はどうだったのか、どのように頑張ったのか、もっとできることはなかったのか。そんなことを、しっかり考えたり振り返ったりもせず、人や周りのせいにしていないだろうか。
 やはり、「おかげさま」という気持ち。してもらうのは当たり前ではない。自分がうまくいったときは、たくさんの方の支えや頑張りのおかげ…そのことを決して忘れることがないように「謙虚さ」や「相手意識」をもって日常を過ごしていかなければと改めて思います。