【5月29日】なぜ勉強するのか?
- 公開日
- 2024/05/29
- 更新日
- 2024/05/29
校長のひとりごと
日本教育新聞の「こころに響く校長講話」に筑波大学附属小学校長の佐々木昭弘先生が寄稿されたものが載っていましたので紹介します。
「なぜ勉強するのか?」と問われたら、皆さんなら何と答えますか?「大人になって困らないため」「夢をかなえるため」「やりたい仕事に就くため」といった将来のためでしょうか?
かつて、残された命が20歳までという子を担任したことがあります。また、病気のために学校に通えず、入院先の病院の中にある教室(院内学級)で勉強している子もいました。将来が約束されていない、この子たちは、なぜ勉強しているのでしょうか。
今、プロ棋士の藤井聡太さんが話題となっています。将棋が素人である私は、将棋の“手を読む”ということが、「自分がこう打ったら、相手はこう打つ。次にこう打てば相手は…」と、一手ずつ順番に考えていくものと思っていました。ところが、将棋を一生懸命に勉強した一流のプロともなると、「自分はこう打つ」という正解が先に思い浮かび、その後に、どうして自分はそう考えたのかを確かめているのです。つまり、プロ棋士には、私たちには見えない世界が将棋盤の中に見えているということです。
お医者さんも、そうです。レントゲン写真から、病気の正体を見つけ出します。医学を勉強したお医者さんには、私たちには見えないものが見えているということなのです。
勉強することで、見えなかったことが見えるようになることは面白くて楽しいことです。そう考えれば、「なぜ、勉強するのか?」の答えは、生きている今、その瞬間の人生を豊かにするためと言えるかもしれません。
授業中のことを思い出してみてください。自分の将来のことなどを考えながら勉強しているでしょうか。きっと、面白くて楽しいときこそ、一生懸命に勉強するのだと思います。もちろん、「なぜ勉強するのか?」には正解がありません。今日お話したことは、私が考えた納得解です。皆さんも、納得解を探してみてください。
私は学級担任をしている頃、「何のために学ぶのか?」という問いに対して子どもたちや保護者の方と一緒に考えるような機会をもっていました。その問いに対して様々な考えを教えてもらいました。たとえば、上にあるような「将来のため」「○○になるために勉強し進学するため」のような具体的なもの。さらには、「自分の可能性を広げるため」「視野を広げるため」「まだ自分でもわからない自分の適性を知るため」「知識を豊富にして人間的に豊かになるため」「文化や伝統を継承するため」「人生を豊かにするため」「様々なことを知ることで、人に優しくできるようになるため」…など本当に様々な考えでした。佐々木先生がおっしゃるように、絶対的な正解はないと思いますし、正解が一つというものでもありません。
また、世界を見渡してみると「生きるため」「貧しさから逃れるため」などの理由もあります。以前、池上彰さんの番組で紹介されていたフィリピンのスラム街の子どもたち。学校には行かず、ゴミを集めてそれを売って生活していた子どもたちに出前授業をしようとした若者が、「私の授業を聞いてくれたら、ご褒美にお菓子をあげるから」と誘い勉強をさせます。子どもたちの中には、だんだん勉強が楽しくなり、ついには学校の先生になった人も出てきます。その人に、「勉強していなかったら今頃は?」と尋ねると、「きっとスラム街のギャングの抗争事件に巻き込まれ、殺されていたと思う」。さらに、「あなたにとって学ぶとは?」と尋ねると、「決して人から盗まれない財産です」と答えました。スラム街では、金目のものはすぐに盗まれるし、場合によっては命まで奪われる。そんな状況で生活してきたからこその言葉です。ですから彼らにとっては「学ぶこと(勉強すること)は財産であり、生きること」なのです。
学び(勉強)は、子どもたちの可能性を広げ、今を豊かにし、未来を、そして人生を豊かにするものであると私は思います。これから子どもたちが、主体的に学びに取り組むこと、すなわち、自ら課題を見つけ、解決方法を考え、仲間と協働し粘り強く取り組み、解決に向かうプロセスを繰り返しながら、生きる力を身につけてほしいと思います。そのために私たち教師は、1時間1時間の授業を大切にしなければならないと思います。