最近の記事はこちらメニュー

最近の記事はこちら

【9月2日】ことば

公開日
2025/09/02
更新日
2025/09/02

校長のひとりごと

 8月25日付、日本教育新聞のコラム『不易流行』からです。


 長針・短針の時計になじんできた世代には、「10時10分前」とは当然9時50分だ。ところが、10時過ぎ、10分の少し前と捉える若者がいる。生まれたときからデジタルで育ってきた世代とズレが生じている。しかし、「経験の違い」と見過ごすことのできない子どもたちの現状がある。よく知られる教材に「ごんぎつね」があるが、珍妙な発言をする子が増えたと聞く。国語科の学習内容に「登場人物の行動や気持ちなどについて、叙述を基に捉えること」とあるが、想像して感じ取る力が衰え、行間を読むことが苦手になっている。

 気の合った仲間内で「ウザっ」「まじ」など短い言葉でやりとりする。ネットで暴言を発する。幼児がスマホに見入っていて親との会話がない。買い物も言葉を使う機会が減った。辞書を引くことや本に親しむことが減って、社会全体の国語力が脆弱化(ぜいじゃくか)し、「生きた言葉」が減ってしまっている。先日の選挙では短い言葉が躍り、ネットには今日も人間味のない言葉が並ぶ。中型辞書にはなんと20万語以上が収録されている。ページを開くと知らなかった言葉がたくさん。季語辞典では新しい言葉に出合う。言葉は文化。多くの地域では、もうすぐ学校生活が再開する。いじめやトラブルを減らすためにも、感性を育て語彙(ごい)を増やす活動を充実してほしい。


 『ごんぎつね』は、いたずら好きの狐“ごん”が、兵十を悲しませた罪滅ぼしに栗などを届けます。しかし、ある日、そうとは知らなかった兵十は、ごんを誤って撃ってしまうという物語です。この物語は、ごんの純粋な優しさと、兵十の誤解が生み出した悲劇を描いています。ごんは、自分の罪(いたずらしたこと)を償うために、兵十のために尽くしますが、その思いは兵十に伝わることなく、命を落とします。物語全体を通して、人間の心の複雑さ、誤解が生み出す悲劇、そして友情や愛情の尊さが描かれています。ごんの行為は、見返りを求めない純粋な優しさです。ごんのその真っ直ぐな行為は私たちの心を打つものです。また、兵十の行動は、人間の思い込みや先入観が、時に大きな悲劇を生み出すことを示唆しています。この物語は、読者に、相手を理解することの大切さや、思いやりの気持ちを持つことの大切さを教えてくれます。


 ネットでの誹謗中傷は後を絶ちません。命を落とす人までいるにも関わらず、繰り返されています。また昨今、簡単に人を傷つける事件も多数起きています。学校では、子どもたちとともに、授業や行事、様々な活動を通して“感性”豊かに、心を育てていくことを目指して取り組んでいかなければと思います。そしてやはり「言葉」の大切さ、重さを一人一人がしっかりと学び、使っていかなければと思います。言葉は人を傷つけ、おとしめることもありますが、一方で、人の心を豊かにし、勇気や元気を与える大きな力をもっています。日本には、他言語では訳すことが難しい素敵な言葉がたくさんあります。私たちが素敵な言葉をたくさん学び、相手への敬意をもちながら、豊かな会話ができればと思います。人々が笑顔に、人々の心が温かくなるような、そんな言葉が溢れる世の中にしていかなればと思います。


(ひとりごと 第1067号)