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【9月11日】ひとつぶの…

公開日
2025/09/11
更新日
2025/09/11

校長のひとりごと

 人間学を学ぶ月刊誌『致知』に「人生を照らす言葉」というタイトルで、国際コミュニオン学会名誉会長の鈴木秀子さんという方の文章が載っていました。その中には、現在NHKの連続テレビ小説『あんぱん』の主人公のモデルとなっている漫画『アンパンマン』で知られる漫画家のやなせたかしさんのことが書かれていました。


 アンパンマンは、困っている人を助けるために自分の顔(あんぱん)をちぎって食べさせる正義のヒーローですが、これはやなせさんの戦争での空腹体験がもとになっているといいます。自分を差し置いてでも人の幸せのために尽くしたいという、やなせさんの人生観がそこには貫かれているのかもしれません。今回紹介する「ひとつぶの水滴」という詩も、そんなやなせさんの人生観が表現された素晴らしい作品です。1978年、『誕生日の詩集』にて発表されました。


「ひとつぶの水滴」

雲の中でひとつぶの水滴が生まれた

地上めがけて落ちていった

無数の水滴はあつまって川になり海へ流れていった

ぼくは何かの役に立ったのだろうか

ひとつぶの水滴はそうおもった

ひとつぶの水滴がなければ川もなく海もない

地球は完全に乾いてしまう

 

 何気ない自然の循環が描かれている詩に思えますが、そこには深い人生の真理が説かれていることに気づくのではないでしょうか。私たちは人間を包み込む大宇宙の働きや四季の移ろい、空気や食物など大自然の恵みにはなかなか気を留めることなく、見逃してしまいがちです。また、そのことに感謝の念を抱くこともなく、目の前の生活や仕事にあくせくするばかりで、大いなる働きを全く意識しないで生きている人が少なくないのです。当たり前と思っていたことが決して当たり前ではないことに気づくのは、人生の中で何らかの試練に直面した時です。大きな地震が来たり、気候変動で食物が思うように生育せずに手に入らなくなったりして初めて、目覚めが促されます。恵まれていることには鈍感なのに、苦しいことや痛みに対してすぐに反応してしまうのが人間の弱さなのかもしれません。

…(後略)…


 鈴木さんの言葉はそのあとも続いていますが、少し要約してお伝えさせていただくと…

「意味もないような一滴の水がなければ、この世界は存在しない。宇宙の真理は、私たち一人ひとりの人間にもあてはまる。私たちの心の中には『自分なんてたいした存在じゃない』『こんなちっぽけな自分に本当に価値があるのだろうか』と自分を低く見てしまう癖が人間にはある。人間であれば誰しもそういう弱さを持っている。しかし、自分で望んでこの世の中に生まれてきた人がいるのか? 私たちは命を作り出すことはできない。呼吸をすることも心臓を動かすことも含めて、人智を越えた大いなる存在によって生かされている。だとしたら、私たちは一人の例外もなく、必要があって命を与えられた尊い存在であるということができる。まさに一粒の水滴が集まって川や海ができるように、一人の存在があってこそ、私たちの存在は小さいように思えても、実に計り知れないほど大きなものがある」


 やはり、私たちの一人ひとり存在はかけがえがないのです。奇跡で命を与えられ、毎日、奇跡の連続で「生かされている」のだと思います。そして、たくさんの「当たり前」と思えるような「ひと、モノ、こと」のおかげで生かされているのです。ですから、「感謝」の気持ちを忘れてはいけないということです。「ぼくは何かの役に立ったのだろうか」と思うこともあるかもしれません。しかし、かけがえのない「ぼく」であり「あなた」なのです。だから毎日を精一杯生きる。誰かがあなたのおかげで笑顔になる…そのことを信じて、今を精一杯に、そして、互いを大事にしていくことを心がけたい…そう思います。


(ひとりごと第1072号)