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【10月1日】幸せ

公開日
2025/10/01
更新日
2025/10/01

校長のひとりごと

 「徹子の部屋」で有名な黒柳徹子さんは現在92歳。まだまだお元気で、「同一司会者によるトーク番組の最多放送世界記録保持者」としてギネス世界記録に認定され、「徹子の部屋」は、現在も世界記録更新中です。そんな黒柳さんの言葉が、藤尾秀明さん監修の『1日1話、読めば熱くなる365人の生き方の教科書』に載っています。


 ソントン・ワイルダーというアメリカの作家が書いた『わが町』というお芝居があります。主人公はエミリーという女の子ですが、彼女は自分の子どもを産んだあと、二十何歳かで死ぬんです。お姑さんたちは先に死んでいて、舞台の右と左にこの世とあちらの世界があるという終わりのほうのシーンで司会者が、「自分が一番幸せだったと思う日、たった一日だけこの世に帰らせてあげる」というんです。エミリーは十二歳のお誕生日の日を選びます。お父さんお母さんはもちろん若いですよね。エミリーは「パパとママがこんなに若かったなんて知らなかった」なんて初めて気が付くんですね。家の中やお庭には懐かしくて素敵なものがいっぱいある。でも、皆素敵だから当時はわからなかった。そして再び死んだ人の世界に帰って、「本当の幸せが、わかっていなかった。命が何万年もあるみたいに思い込んで。人間って、生きているときって、何も見ていないんですね。家族がちょっと顔を見合わせたり、いまが幸せだということに気付いてはいなかった」と姑に言うんです。

 昔、私もエミリーの役を演(や)ったことがあって、演っているうちに涙が出てきてしまうようなお芝居なんですが、幸せって何だろうと考えるとき、そのときそのときの自分が幸せだと感じられればいいんだけれども、親と顔を見合わせる暇もないほどに忙しくしてしまって、なかなか気が付かないんですね。

 ちょっとでも立ち止まって親の顔を見るとか、友達のこと、親切にしてくれる人のことを少しでも思ってみることができれば、生きているうちに幸せをかみしめることができるんじゃないかと思います。


 コロナ禍のとき、私たちは今までの「当たり前」の有難さに気づかされました。「幸せ」とは何かを改めて考える機会にもなりました。子どもたちが学校にいる日常、たくさんの人とかかわることができる日常、勉強であれ仕事であれできる日常、好きなことを好きなようにできる日常、いろいろなことにチャレンジできる日常…何気ない日常がこんなにも有難いし、幸せであると気づきました。目の前の「ひと」「もの」「こと」は、「当たり前」ではなく「有ることが難しい」ことなのだと改めて考えさせられました。

 コロナ禍を過ぎ、また当たり前のような日常を送っています。そんな中、そのことが「有難いこと」「感謝すべきこと」「幸せであること」ということを忘れてしまいがちです。だからこそ、身のまわりの「ひと」「もの」「こと」がいかにかけがえがないかを忘れないようにしなくてはと思います。そして、そのことを子どもたちにも伝えていくことも私たち大人の大切な仕事であると思います。


(ひとりごと第1084号)