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【12月22日】タイムトラベル

公開日
2025/12/22
更新日
2025/12/22

校長のひとりごと

  昨日の西日本新聞のコラム『春秋』からです。


 年の瀬、カレンダーの準備はできただろうか。真新しい暦をめくって、大切な記念日や予定を書き込むうちに、良い年になりそうな気がしてくる。根拠は何もないけれど。

 日本の暦を作るのは国立天文台の役割だ。暦計算室という部署が日の出、月齢、二十四節気、日食や月食について天体の動きを精緻な計算で予測し、毎年2月に翌年の暦を発表する。古くから国のまつりごととして受け継がれてきた。

 冬は空気が澄んでいる上に明るい星が多く、星座が探しやすい季節。天の川のほとりで輝く「冬の大三角」の一角、シリウスは大昔から暦に使われてきた。全ての星の中で飛び抜けて明るく、目立つためだ。5千年前の古代エジプトでは、シリウスが太陽より先に東から昇る時期にナイル川の氾濫が始まり、この星を基準に太陽暦が生まれた。定期的な氾濫が土壌を肥やし、繫栄した農耕文明はシリウスのおかげでもあった。教科書で学んだ歴史家ヘロドトスの言葉「エジプトはナイルの賜物」である。どこからでも目を引くシリウスに世界の人々は名前を付けた。日本では青星、中国ではオオカミの目に見立てて天狼星と呼ばれた。北極星は430年前、シリウスは8年前の光。いま私たちが目にする星の光は、はるか遠くから永い時間をかけて届いた。ここしばらく、列島は10年に1度の高温になるらしい。肉眼で星空を楽しむにはちょうどいいかも。


 一昨日の土曜日は、12月とは思えないくらいの陽気でした。各地で20度を越える気温…。夏は「猛暑」は当たり前で命の危険を感じる「酷暑」もしばしば…、突然の「ゲリラ豪雨」があったり、冬でも今回のような20度を越える気温になったり…。「温帯」の日本もこのまま高温・多湿が進めば「亜熱帯」へと本当に移行するのではないかと不安になります。温暖化は、「化石燃料の使用」「森林の減少」「農業や畜産にともなうメタンガスなどの発生」などによる「温室効果ガスの増加」が原因といわれています。


 コラムに登場する「冬の大三角(あるいは冬の大三角形)」は、皆さんも学校の授業で習ったり、聞かれたこともあると思いますが、冬に南東の空を見上げることで確認ができる恒星[こうせい:自らの重力で圧縮されたガス(主に水素)を核融合反応によって熱エネルギーと光を発する天体]のうち、おおいぬ座α星シリウス、こいぬ座α星プロキオン、オリオン座α星ベテルギウスという3つの1等星で構成される三角形のことです(※α星とは星座の中で最も明るい星のこと)。形は正三角形に近く、三角形の中を淡い天の川が縦断しています。

 その中の「シリウス」は8年前の光。私たちが「モノが見える」というのは、その物体から出る光、または反射した光が目に届くことによって「見えた」ということになりますから、私たちが見ているシリウスは8年前のシリウスということになります。通常私たちが見ているものはすべて「過去」のものなのですが、光のスピードが約 秒速30万kmですから、「ほぼ今」の状態かもしれません。しかし、宇宙規模となれば距離が格段に遠くなりますから「ほぼ今」とはいえません。たとえば、「月」は地球から約38万kmの距離にありますから約1.3秒前のもの、「太陽」は約8分前のもの(今この瞬間に太陽が消滅しても8分間は誰も気づきません)、歌のタイトルにもなっている「ペテルギウス」は約640年前のもの(室町時代の光)、「アンドロメダ銀河」はなんと約250万年前のもの(人類が誕生するかしないかぐらいの頃の光)なのです。

 「星を眺める」というとき、地球からはるか遠い星が放った光が、時間をかけてたどり着いたときに「見える」ということですから、実は「過去へのタイムトラベル」をしているいるようなものかもしれません。そんな幻想的なことも味わうことができる大切な地球を守っていくためにも、私たちがもっと考えなければいけないことがあるのだと思います。


(ひとりごと第1139号)