【11月14日】ゆずり葉
- 公開日
- 2023/11/14
- 更新日
- 2023/11/14
校長のひとりごと
月刊誌『致知』の連載「人生を照らす言葉」に、国際コミュニオン学会名誉会長の鈴木秀子さんの言葉が載っています。
私たち人間にとって死は決して避けられるものではありません。誰もがこの生を終えて、次の世代にバトンタッチする時が必ずやってきます。死は忌み嫌うものでも恐れるものでもなく、自然の摂理そのものであると素直に受け入れられる人は、幸せだと思います。
ここで紹介する詩人・河井醉茗(かわいすいめい1874〜1965)の『ゆずり葉』は、そのことを私たちに教えてくれる作品です。
『ゆずり葉』
子供たちよ。
これは譲り葉の木です。
この譲り葉は 新しい葉が出来ると 入れ替わってふるい葉が落ちてしまうのです。
こんなに厚い葉 こんなに大きい葉でも 新しい葉が出来ると無造作に落ちる
新しい葉にいのちを譲って…。
子供たちよ。
お前たちは何を欲しがらないでも 凡(すべ)てのものがお前たちに譲られるのです。
太陽の廻るかぎり 譲られるものは絶えません。
輝ける大都会も そっくりお前たちが譲り受けるのです。
読み切れないほどの書物も みんなお前たちの手に受け取るのです。
幸福なる子供たちよ
お前たちの手はまだ小さいけれど…。
世のお父さん、お母さんは何一つ持ってゆかない。
みんなお前たちに譲ってゆくために
いのちあるもの、よいもの、美しいものを一生懸命に造っています。
今、お前たちは気が付かないけれど ひとりでにいのちは延びる
鳥のようにうたい、花のように笑っている間に気が付いてきます。
そうしたら子供たちよ
もう一度、譲り葉の木の下に立って 譲り葉を見る時が来るでしょう。
この詩について、鈴木さんは
「親が幼い子供たちに語りかける、詩の一言一言が心にしみる。子供たちに素晴らしい宝を譲り渡し、その宝を生かしながらよき人生を送り、世の人々をも幸せにしてほしいとの親の切なる思いが、そこには込められています」
さらにこう続けています。
「これは親から子という命のバトンタッチに限ったことではありません。上司から部下へ、先輩から後輩へ、先生から生徒へと様々な読み方ができます。一方、生きている私たちもまた前の世代から大切なものを譲り渡されて、このかけがえのない人生を歩いていることを思うと、受け取った宝をどのようにいかすのかという別の視点も生まれます。それぞれの立場で、一生を通して何を大事にし、何を譲っていくのか。自分が譲り受けたものをいかに育んでいくのか。この詩を何度も繰り返し音読する中で、ご自身の心と向き合ってみてはいかがでしょうか」
私たちが生きていること自体が奇跡であり、かけがえがないのだと思います。その中で受け継がれてきた「いのち」「よいもの」「美しいもの」「かけがえがないもの」…をどう大切にし残していくのか、そしてこれらのことをどう追求していくのかを考えなければならないのだと思います。財産や名誉ではなく、目に見えない大切なものをいかに残していくのか…それを真剣に考えなければならないのだと思います。
『譲り葉』の詩は、心を揺さぶる深い詩であることを教えていただきました。