【2月20日】一歩一歩…
- 公開日
- 2024/02/20
- 更新日
- 2024/02/20
校長のひとりごと
仏教学者で文学博士である鈴木大拙(すずきだいせつ)さんという方の晩年、秘書をされていた岡村美穂子さんという方の言葉が、『1日1話、読めば熱くなる365人の生き方の教科書』という本に載っています。
鈴木大拙先生が私たちに伝えられようとしたメッセージの一つは、人間には「計らい」すなわち「作為的な自我の働き」があることを知ることではないでしょうか。私たちは自我の働きで自分で自分を小さな枠に閉じ込めて不自由にしてしまいます。そしてどうにもならなくなって、もがき苦しみます。だけど、これがまさに人生の矛盾なのでしょうけど、その枠がないと本当の自由が分からなくなってしまいますよね。
自我をなくすには、まず必死になることだと私は思います。「自分はなぜこのような未熟な人間なのだろうか」と深く反省して苦しまないと、自我を超えようという気持ちは沸き起こってはきません。そのように考えると大拙先生は95歳で亡くなるまで「願」に生き抜かれた方でした(※この場合の「願」は仏教用語)。「まだまだだぞ」という言葉を最後の最後まで使っていらして…。
先生が亡くなるまでお住まいになっていた鎌倉の松ヶ丘文庫に行くには130段の高い石段を上らなくてはいけません。先生も90歳を超えられて、新聞記者の皆さんがみえるたびに「大変でしょう」と心配されるんですが、先生は「いや、一歩一歩上がれば何でもないぞ。一歩一歩努力すれば、いつの間にか高いところでも上がっている」と。これは無心についておっしゃった言葉です。
だから、下にいるのに上のほうばかり眺めてね、「上るのは難しい」と思って動かないでいる人と、大拙先生のように一歩一歩静かに進んでいこうとする人がいるわけです。私は大拙先生のそういうお姿を理想として歩んでいきたいと思います。
本田技研工業の創始者、本田宗一郎さんの著書『やりたいことをやれ』の中にも「まず第一歩を」というところがあります。
「人間が進歩するためには、まず第一歩を踏み出すことである。ちゅうちょして立ち止まっていては駄目である。なぜなら、そこにどんな障がいがあろうと、足を踏み込んではじめて知れるからだ。失敗は、その一歩の踏み込みだと思う。前進への足跡だと思う…」
どんな難しいことも、一歩を踏み出さなければ「0」であるし、失敗もしない。しかし成長も成功も生まれない。たとえ100段の階段であっても踏み出さなければ、決して上には上がれない。確かに100段上るのはきついですが、大拙さんが言われているように一歩一歩を積み重ねていきさえすれば、確実に上に近づいていっている。日々の小さな一歩の積み重ねがあれば、着実に前に進んでいる。それは遠く長い道のりかもしれないが、着実に進んでいるに違いない。
私のつたないひとりごとも今回で通算765回…小さな一歩を踏み出した後、3年と9ヶ月の間、たくさんの人たちに励ましていただいたおかげで今日があります…どれだけの人にどれだけのことが伝わったのかはわかりませんが、少なくとも私自身の学びになり、私自身の戒めになっていることは間違いありません。これからも一歩一歩、少しずつ少しずつ…その積み重ねをしなければと改めて思います。