【5月29日】リアリティ
- 公開日
- 2023/05/29
- 更新日
- 2023/05/29
校長のひとりごと
28日付の西日本新聞の『随筆喫茶』の欄に作家の円城塔(えんじょう とう)さんのコラムが載っていました。「オンラインごしのリアリティ」というタイトルです。
なんだかんだで、オンラインで仕事をする機会が増えた。ふとすると、数年一緒にやっているのに、直接対面したことはない、といったことが起こったりする。そういえば名刺を、となってはじめて、実は会うのは初めてかと気づいたりする。カメラとマイク越しに顔や声は知っているから、相手がその人なのだということはわかる。しかし、現実のもたらす違和感たるやすさまじく、まず3Dである。これは画面を通じた3Dさと加減とは桁の違うものであり、おもわず相手のまわりをぐるぐる回ってみたりすることになる。立体感が全く違い、「本当に立体ですね」と思わず問いかけてしまったりする。そうして大きさの違いに戸惑う。オンライン画面の向こうになんとなく想像していた大きさと、目の前の人の背の高さが違って混乱する。大きいと思っていた相手が小さく、痩せていると思っていた相手に意外な厚みがあったりする。
映像が自然に見えるためには、様々な工夫が必要である。向かいあった二人が何気なく会話を交わすという場面であれば、役者二人はほとんど密着するように立たないいと、なぜかそういう絵とはならない。現実のように見せるために、非現実的な位置取りをしなければならないという話であって奇妙なのだが、そういうことになっている。…(中略)…
とはいえ、オンライン越しの映像だって虚構ではなく、一個のれっきとした現実である。そうして今、目の前にいる相手だって、眼というカメラを通して見ている映像である。大きく見ればどっちが本当という話ではなく、それぞれの現実としかいいようがない。…目としてカメラを備えるロボットには、オンライン越しの相手と、目の前にいる相手の見え方が違うというのは当たり前すぎるかもしれなくてどんな種類のカメラかによる。でもやっぱり、対面している相手の存在感はネット上の相手のものとは全く異なるものなのであり、圧倒的で、疑いようなどなくて、ああ、存在とはこういうものだったのかという説得力に満ちている。…(後略)…
コロナ禍となり、急速に「オンライン会議」「オンライン授業」が進みました。オンライン授業においてもメリットはもちろんありますが、一方で、「通信環境や端末の問題」「健康への影響」「身近にある様々な誘惑による弊害」「モチベーションの持続の難しさ」「コミュニケーション能力への影響」などの懸念があります。
また最近では、AIを使ったフェイク画像で株価にも影響が出たり、AI生成声での詐欺が問題になったりすることが報道されていました。さらに、様々なところで目にする「ChatGPT(高度なAI技術によって人間のように自然な会話ができるAIチャット)」をはじめとする対話型AI。その活用が急速に広がり、その可能性に大きな期待が寄せられている一方で、AI技術が予想をはるかに超えるスピードで進化していることから、人間の知能を超える「シンギュラリティ=技術的特異点」が近い将来到達する可能性も指摘され、仕事を奪われるとか、いずれ人間がAIに支配されるのではといった不安も渦巻いています。先日、開発した企業のCEOであるサム・アルトマン氏は、
「(ChatGPTは)想像できない方法で、私たちの生活を向上させるものだ」
と述べた上で、
「リスクを軽減するための規制が必要で、政府と話し合うことが重要だ」
とも話されていました。要するに、たいへんな可能性をもった素晴らしい技術であると同時に、使い方を誤ると、今後人類を滅ぼしかねないものにもなり得るものであるとも言われているような気がします。
やはり、「対面」でのコミュニケーション、リアリティを大切にしながら、人と人との「繋がり」について考え、便利なものとどのように付き合っていくのかを、みんなが真剣に考えていかなければと思います。